鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

有限の経営資源を戦略的に傾斜配分する

[要旨]

ひと・もの・かねの経営資源は有限であり、それを社内の各事業に適切に配分し、最大の成果を得られるようにすることは、経営者の重要な役割です。したがって、単に均等に資源配分をするだけでは、成果は最大化できないので、精緻な経営環境分析に基づき、事業の将来性を見通して、有望な事業に傾斜配分することが重要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、事業活動においては、ビジョンを経営戦略に落とし込むことが不可欠であり、そのためには、外部環境と内部環境の分析を行い、どのような市場で有利に事業展開できるかを冷静に見極め、最も可能性の高い市場を特定することが欠かせないということを説明しました。

これにつづいて、遠藤さんは、経営戦略に基づく資源配分についてご説明しておられます。「経営者の最も重要な仕事のひとつが、『資源配分』です。人・モノ・金という経営資源を、どこにどれだけ配分するかを決めることです。その際には、事業や商品・サービス、地域などを戦略的に絞り込み、経営資源を集中的に投下することがポイントになります。例えば、1億円の資金があって、成長性が見込める魅力的な事業が、10あるとします。『10の事業に均等に1,000万円ずつ配分する』というのは、あまり戦略的とは言えません。

そうではなくて、『1つの事業に8,000万円、残り2,000万円を1,000万円ずつ2つの事業に投下する』といった具合に考えることによって、成功確率は高まり、強い事業を育てることが可能となります。経営においては、経営資源を『傾斜配分』してこそ意味があります。限られた経営資源を『傾斜』させてこそ、独自の強みをつくることができるのです。その際、どこに『傾斜』させるかという決定を、勘や経験則だけで決めるのは感心しません。経営はギャンブルではないのですから、『ここで勝負しよう』という方向性に基づいて、理詰めの意思決定をすることが必要です。

逆に言えば、その方向性がなければ、経営資源の傾斜配分を行うことはできない、ということです。そして、その方向性こそが経営戦略です。理詰めの判断に裏打ちされた、合理的な経営の方向性こそが、経営戦略であると言うことができます。経営資源は有限ですから、その中で持続的な差別化を実現するためには、あれもこれもと手を出すのではなく、どこかに集中して経営資源を傾斜配分する。そして、差別化に結びつく“臨界点”に達するまでは、脇目もふらずに選択した事業に『フォーカス』し、全社一丸となって取り組んでいくことが肝要です。それを、『選択と集中』と呼びます」

遠藤さんがご説明しておられるように、資金を傾斜配分するということは、伸ばすべき事業を見極めるということです。こうすることで、限られた経営資源で最大の成果を得ることを目指すわけです。ですから、遠藤さんが強調しておられるように、「傾斜配分」することに意味があるのであり、その判断に経営者の能力が求められていると言えるでしょう。では、どのように資源配分の判断をするのかというと、最も有名なものは、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)です。

これは、簡単に言えば、成熟した事業から得られる資金を、これから成熟するであろう事業に振り向け、その事業から新たな資金流入を得ようとする手法です。もちろん、これから成熟する事業を前もって的確に判断することは難しく、だからこそ、精緻な環境分析を行わなければなりません。また、成熟していると判断されるような事業であっても、さらに資金流入が得られるという事業もあります。

例えば、たまごっちは1996年に発売されましたが、27年経った2023年にも新製品が発売されている長寿製品です。もちろん、たまごっちが長寿製品となったのは、メーカーのバンダイが製品寿命を延ばすための努力によるところもあると思いますが、資金流入は、必ずしも新しい事業だけから得られるというわけではありません。このように、資源配分は、全方向で判断しなければならない重要な活動であり、経営者の能力が最も問われる活動でもあると、私は考えています。

2024/3/19 No.2652

 

経営とは戦略に基づく『サイエンス』

[要旨]

事業活動においては、ビジョンという曖昧模糊とした思いを、経営戦略に落とし込むことが不可欠です。そのためには、顧客や市場に関する情報、競争相手に関する情報、自分たちの強みや弱みなど、客観的な情報収集や分析を行い、自分たちはどの『土俵』であれば『際立つ』ことができるのか、チャンピオンになることができるのかを冷静に見極め、最も可能性の高い『土俵』を特定することが必要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、経営戦略には、主に社内の資源配分を最適化する全社戦略、各事業の競争力を最大化する事業戦略、事業戦略を側面から支える機能別戦略の3つの階層があり、経営者には、各戦略の整合性を維持し、成果が最大になるよう管理する役割があるということを説明しました。これにつづいて、遠藤さんは、経営戦略が必要となる理由について述べておられます。

「経営戦略は、経営の『背骨』ですが、経営はいきなり戦略づくりから始めるものではありません。その出発点は、『ビジョン』です。ビジョンとは、『こういうことをやりたい』、『こういう会社をつくりたい』といった、『目指すべき将来の姿』のこと、思いや夢と言ってよいかもしれません。人間が営む企業は、個人の思いからスタートするのが一般的です。しかし、漠然とした思いで留まっていたのでは、具体性に欠け、価値創造の具体的な形が見えてきません。どんなにすばらしいビジョンであっても、思いだけでは、経営としての成功を手に入れることはできません。

例えば、『自動車メーカーになりたい!』という思いを持って会社経営を始めたとします。しかし、その思いだけでは、並み居るライバルたちとどう戦えばいいのか、具体的な姿はみえません。大衆車をつくるのか、それとも高級車をつくるのか、スポーツカーや小型車をつくるという選択肢もあります。つまり、単に、『自動車メーカー』を目指すというのではなく、『どのような自動車メーカーを目指すのか』という具体像を明らかにしなくてはなりません。だからこそ、経営戦略が必要なのです。企業経営においては、ビジョンという曖昧模糊(あいまいもこ)とした思いを、経営戦略に落とし込むことが不可欠です。

そのためには、顧客や市場に関する情報、競争相手に関する情報、自分たちの強みや弱みなど、客観的な情報収集や分析を行い、自分たちはどの『土俵』であれば『際立つ』ことができるのか、チャンピオンになることができるのかを冷静に見極め、最も可能性の高い『土俵』を特定することが必要です。経営とは、リスクをとって挑戦する『リスクテイキング』ですが、決して一か八かの『ギャンブル』ではありません。経営とは、理詰めで考え抜いた合理的な経営戦略に基づいて、価値創造を実現する『サイエンス』でもあるのです」

私も遠藤さんと考えは同じですが、経営ビジョン(経営理念、使命、ミッション、基本方針などということもあります)は、事業活動の目的地、目指すところであると考えています。そして、経営戦略は、目的地を目指す方向を示すものだと考えています。例えば、悪路であっても最短距離で目指すのか、遠回りであっても緩やかな道で目指すのかというものを示すものが経営戦略だと考えています。さらに、目的地まで徒歩で行くのか、自動車に乗るのかといった、具体的な方法を示すものが経営戦術だと考えています。

そして、これらが示されていることで、組織活動である事業活動が、より効率的になり、早く目指すところに到着することが可能になります。ところで、このような考え方に対し、「将来のことは不確定のことが多いのだから、どういう活動をするのか、今、深く考えてみてもあまり意味はない」と、否定的に考える経営者の方も少なくないようです。確かに、ファーストリテイリング柳井正さんは、「一勝九敗」というご著書についいて、「『一勝九敗』という本のタイトルは、経営というものはそもそもそれぐらいの確率でしか成功しないものだという僕の実感を表したもの」と述べておられます。

では、経営戦略に基づく活動は意味がないのかというと、私はそうではないと思っています。経営戦略に基づいて活動している会社は、自律的・能動的に活動していることになりますが、経営戦略のない会社は、成行的な活動しかできず、経営環境に受動的にしか対応できません。経営環境の先行きが不透明だとしても、どちらの会社の方がよい結果につながりやすいかと言えば、経営戦略に基づいて活動している会社でしょう。

希に、成行的な活動しかしていない会社が、たまたま、経営環境の追い風に乗って成功することがありますが、それは一時的なものでしかなく、継続的に成功できるとは限りません。また、偶然の追い風で会社が成功できるのであれば、経営戦略は不要かもしれませんが、それは同時に経営者も不要ということになります。ですから、事業活動で成功を得るために、経営戦略は必要ですし、また、経営者には、その経営戦略に基づく活動が奏功するための采配をするという重要な役割があるのです。

2024/3/18 No.2651

 

経営戦略の3つの階層

[要旨]

経営戦略には、主に社内の資源配分を最適化する全社戦略、各事業の競争力を最大化する事業戦略、事業戦略を側面から支える機能別戦略の3つの階層があります。そして、経営者には、各戦略の整合性を維持し、成果が最大になるよう管理する役割があります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、戦略という言葉を最初に使ったのは、アルフレッド・チャンドラーであり、彼は、1962年に出版した「経営戦略と組織」の中で、戦略を、「企業の長期的目標と目的の決定、行動指針の採用、目的を達成するために必要な資源配分」と定義したということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、経営戦略には3つの階層があるということについて説明しておられます。

「経営戦略は、大きく3つの階層ー『全社』、『事業』、『機能』に分けて考えることができます。企業全体として、どのような方向性に基づいて、どのような事業に取り組んでいくのかという全体像を示すのが、『全社戦略』(Corporate Strategy)です。個々の事業単位で、どのような価値創造をし、差別化を実現するのかを明らかにするのが、『事業戦略』(Business Strategy)です。さらに、それぞれの事業戦略は、技術・開発、購買、生産、販売、財務、人事など、各機能部門レベルの『機能別戦略』(Functional Strategy)に落とし込まれます。

ここで大事なのは、階層間の『整合性』です。3階層の戦略は、それぞれが独立したものではなく、相互に密接に関連しています。階層別の戦略に落とし込んでいく中で、それぞれがバラバラな存在ではなく、互いに整合性のとれた一貫した戦略になっていなければなりません。現場レベルで遂行される機能別戦略が、経営トップが策定した全社戦略と有機的につながったものでなくてはならないのです。

例えば、『高級車でチャンピオンになろう』という全社戦略が打ち出されているのに、営業の現場が、『売れ筋である低価格車を売りたい』などと考えて仕事をしていたのでは、経営戦略は機能不全をきたします。そうした不整合が起きないように、戦略の階層間の一貫性、整合性をどのように担保していくのかを考え、首尾一貫した経営戦略を練ることが大切です。私が経営戦略を『合意された組織の目標』と呼ぶのは、まさに、この整合性、一貫性が大切だと信じているからです」

全社戦略は、会社が複数の事業を営んでい場合に、事業ごとの戦略の間で調整が行われ、会社として最適な結果を導くための戦略です。では、どのような方法で調整が行われるのかというと、プロダクト・ポートフォーリオ・マネジメント(PPM)や、バリューチェーン(価値連鎖)分析により検討する方法です。一方、事業戦略は、個々の事業を対象とする戦略であり、その事業が最大の成果をあげることができるようにすることが目的です。

そして、成果を最大化させるためには、ライバルとの競争に勝つことが主な目的であることから、事業戦略は競争戦略でもあると言えます。その例としては、米国の経営学者のポーターの提唱した、「3つの基本戦略」や、同じく米国の経営学者のコトラーの提唱した、「競争地位別の戦略」などがあります。最後に、機能別戦略は、マーケティング戦略、生産戦略、購買戦略、研究戦略、人事戦略、財務戦略などです。そして、遠藤さんも、各戦略間の整合性が重要とご指摘しておられます。

そのためには、まず、全社戦略を立案し、それに沿って事業戦略を立案するという手順を踏むことになります。これは、事業戦略は全社戦略の下位戦略と言えます。さらに、機能別戦略は、事業戦略を側面から支えるという位置づけになるでしょう。ここで容易にご理解いただけると思いますが、経営者の方は、整合性のとれた各戦略を立案し、さらに、実際にそれらを実践してみて齟齬が起きていないかを管理する役割があります。なぜなら、齟齬が少ない方が、会社全体の効率性が高まり、それは、最大の成果につながるからです。

2024/3/17 No.2650

 

経営戦略は目的達成のための資源配分

[要旨]

ビジネスの世界において、戦略という言葉を最初に使ったのは、アルフレッド・チャンドラーであり、彼は、1962年に出版した「経営戦略と組織」の中で、戦略を、「企業の長期的目標と目的の決定、行動指針の採用、目的を達成するために必要な資源配分」と定義しました。そして、経営が高度に複雑化した現在は、経営戦略抜きには、経営の目的である価値創造は実現できなくなっています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、経営戦略は経営の意思であり、多様なステークホルダーとの約束で、具体的には、どのような会社を目指すのか、どのような存在になりたいのかを示し、株主や顧客というステークホルダーと約束するもので、これを明確にするこで、会社に魂が宿ることになるということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、経営戦略は経営の目的である価値創造のために必須であると述べておられます。

「ビジネスの世界において、戦略という言葉を最初に使ったのは、アルフレッド・チャンドラーです。彼は、1962年に出版した、『経営戦略と組織』という名著の中で、戦略を、『企業の長期的目標と目的の決定、行動指針の採用、目的を達成するために必要な資源配分』と定義しました。近代経営における戦略は、まさにここが起点と言えます。(中略)チャンドラーが定義した『企業の目標』を議論する前に、そもそも、『企業は何のために存在するのか』、すなわち、『経営の目的』について考えてみましょう。その答えも、決して一様ではありません。

『利益を上げること』、『株主価値を極大化すること』が、経営の目的だと主張する人もいるでしょう。確かに、利益を上げ、企業のオーナーである株主に還元することは、資本主義社会の中の存在である企業にとって、大切な命題です。しかし、私は、企業経営の本質は、『価値創造』にあると考えています。顧客に認められる価値を生み出してこそ、顧客はそれを購入し、対価を支払おうとします。それによって、企業は収益を上げることができます。価値創造に成功しなければ、利益を上げることも、株主に還元することもできません。

例えば、製薬会社は、研究に研究を重ねて病や体の不調に悩む人たちが健康な生活を取り戻せるよう、さまざまな新薬を開発する努力を続けています。ファッションブランドは、品質とデザインを究め、快適な着心地やおしゃれ心を満たす服・装身具をつくろうとがんばっています。町のクリーニング店は、洗濯・シミ抜き・アイロンなどの技術力を養い、人々が清潔な暮らしを営めるよう、サービスを提供しています。利益にしても、株価や配当にしても、顧客が認める価値を生み出したことによる『副産物』にすぎません。企業活動の本質とは、価値創造活動のことなのです。

ピーター・ドラッカーは、その名著、『マネジメント』の中で、経営の目的を、『顧客の創造』であると定義しました。『市場をつくるのは、神や自然や経済的な力ではなく企業である』と看破し、顧客を創り出すことこそ、企業の使命であると位置づけたのです。『価値創造』と『顧客の創造』は表裏一体のものです。顧客を生み出すためには、顧客が認める価値を生み出さなくてはならないからです。企業活動は、すべて、価値を生み出すことに収斂(しゅうれん)しなくてはなりません。優れた経営とは、全社一丸となって、『価値創造』に邁進し、顧客が認める価値を生み出すことなのです」

私も、遠藤さんと同様に、経営の目的は価値創造でり、それを奏功させるために、経営戦略は欠かせないと考えています。しかし、チャンドラーが経営戦略という言葉を世に出す前も、事業活動は行われていたのに、なぜ、経営戦略が必要と考えられるようになったのでしょうか?それは、経営環境がかつてより複雑になってきたからであると、私は考えています。かつて、もの不足の時代は、製品などは、作ればすぐに売れました。すなわち、生産活動そのものが、直ちに利益を得る活動になっていました。

ところが、社会が豊かになり、もの不足が解消してくると、製品を製造するだけでは、必ずしも、それが売れるとは限らなくなりました。そこで、経営戦略によって競争力を高める必要が出てきました。こうした経緯から、事業活動の目的は、製品を製造することというよりも、価値を創造することと考えられるようになったと考えられます。そのため、現在は、経営戦略の重要性が高まり、経営戦略なしに価値創造は遂行できなくなっていると言えるでしょう。

2024/3/16 No.2649

 

経営戦略によって企業に魂が宿る

[要旨]

経営コンサルタントの遠藤功さんによれば、経営戦略とは、経営の意思であり、多様なステークホルダーとの約束です。さらに、どのような会社を目指すのか、どのような存在になりたいのかを意思表示し、株主や顧客というステークホルダーと約束するものだそうです。そして、会社は設立手続きを行い、登記をすれば、誰でもつくることができますが、経営戦略を練り込み、明らかにすることによって、会社に魂が宿ることになるそうです。


[本文]

経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読みました。遠藤さんは、まず、経営戦略によって会社に魂が宿るということについて述べておられます。「ビジネススクールに入学されたみなさんは、これから経営に関するさまざまな知識を体系的に学んでいくわけですが、その柱のひとつが経営戦略です。といっても、経営企画部あたりに所属している方は別ですが、それ以外の多くの人にとっては、経営戦略というものは、日頃、あまりなじみのあるものではないと思います。

それよりも、マーケティングだとか、営業、生産管理、財務・経理といった、実務に直結する、機能別の知識を学ぶことにより、大きな関心があるかもしれません。確かに、そうした機能別の知識は実践に直結しますし、すぐに役立つことも多いかもしれません。それに比べると、経営戦略というのは、その重要性こそ、誰も否定しませんが、どこか漠然としていて、掴みどころがありません。建物や設備、人材のように目に見えるわけでもありません。

もちろん、経営戦略も、中期経営計画などのような『計画』に落とし込まれ、目に見える形として表現されることはありますが、それでもどこか漠然としたものであることには、あまり変わりがありません。しかし、それでも経営戦略は企業経営において最も重要な根幹部分です。理に適った経営戦略なしに、よい経営をすることはできません。経営戦略が不在だったり、その品質が低ければ、その企業は迷走し、成功を手に入れることはできないのでしょう。

端的に言えば、経営戦略とは、経営の『意思』であり、多様なステークホルダーとの『約束』です。どのような会社を目指すのか、どのような存在になりたいのかを意思表示し、株主や顧客というステークホルダーと約束するものが経営戦略なのです。企業は設立手続きを行い、登記をすれば、誰でもつくることができます。しかし、それだけでは、所詮、『箱』をつくったにすぎません。経営戦略を練り込み、明らかにすることによって、企業に『魂が宿る』のです」

私は、先日、ある経営者の方から、「わが社のような会社でも、経営戦略は必要なのでしょうか」という質問を受けたことがあります。でも、これについては、遠藤さんの説明を読めば、経営戦略が必要であるということはご理解できるでしょう。ちなみに、私は、経営戦略について、遠藤さんの説明とは、少し違う整理をしています。まず、会社の在り方や目指す目標などは、経営理念で示します。

さらに、その経営理念を、より、簡潔、かつ、具体的に宣言するものを、コミットメントと言います。そして、それを実現するための方法は、経営戦略で示します。その経営戦略にそった具体的な活動は、経営戦術で示します。その経営戦術などによって、いつまでに、誰が、何を、どこで、どれくらいといったことは、事業計画で示します。ただ、これらの言葉の定義は、厳密に定められているわけではありませんが、おおよその内容は一致しています。そして、繰り返しになりますが、これらの経営戦略がなければ、会社は魂のない状態になってしまいます。

2024/3/15 No.2648

 

組織開発は対話による関係づくりから

[要旨]

組織開発の始まりの多くは、対話による関係づくりからスタートします。なぜなら、タスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスに目を向けて対話を行うことで、メンバーは自分たちのどのようなプロセスからモヤモヤが起こっているのかに気づくことができるからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、コンサルタントの早瀬信さんたち3人の著書、「いちばんやさしい『組織開発』のはじめ方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、組織開発の主な対象は、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスですが、技術的課題、すなわち、主にタスク・プロセスを改善する適切な方法と、適応課題、すなわち、主にメンテナンス・プロセスを改善する適切な方法を、上手く組み合わせることが、組織開発を奏功させる鍵になるということについて説明しました。

これに続いて、早瀬さんは、組織開発の第一歩は、対話による関係づくりから行われるということについて述べておられます。「組織開発の始まりの多くは、『対話』による関係づくりからスタートします。タスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスに目を向けて対話を行うことで、メンバーは自分たちのどのようなプロセスからモヤモヤが起こっているのかに気づくことができます。自分たちでモヤモヤの要因に気づくという体験は、自ら現状を変える意志を生み、どのように関係を変えていけば良いかを話し合う一歩にもなります。次の行動へのモチベーションが生まれるのです。

互いのモヤモヤの要因をめぐって対話していく過程で、安全で話しやすい雰囲気(心理的安全性)が生まれ、関係の質が向上し始めます。関係の質が良い方向に変化すると、互いの考え方に影響を受けることから、メンバーの思考の質が変化し始め、それが行動につながっていきます。新たな考えやアイデアが生まれたり、他者の提案を受け入れやすくなったりするなど、メンバーの変革行動も始まっていきます。対話による関係づくりを行い、モチベーションの高い変革行動につなげる。これが組織開発の初めに目指すことなのです」(58ページ)

早瀬さんは、「組織開発は対話による関係づくりから始まる」と述べておられるものの、その理由については述べておられません。しかし、私も、経験的に、組織をよくしようという時は、対話は重要だと考えています。なぜなら、組織は、有機的な存在である人の集まりであり、そのつながりを円滑にするには、相互理解は欠かせません。そして、その相互理解を進めるには、対話が必要になるからです。これについては、ほとんどの経営者の方も経験的に同じように感じると思います。

その一方で、組織内での対話、すなわち、コミュニケーションの確保は、軽んじられている会社も少なくないと思います。その理由のひとつは、組織の上位に立っている人ほど、コミュニケーションの必要性を感じにくいからだと思います。なぜなら、会社の経営者や幹部は、部下に対して話をきいてもらいやすい立場にありますが、逆に、部下が幹部や経営者に話をきいてもらうことは、比較的容易ではありません。

すなわち、組織の上位の人は、下位にいる人と比較して、コミュニケーションをとるための労力が少なくてすむので、コミュニケーションの重要性を感じにくいのだと思います。もうひとつの理由は、社内での会話は、時間を無駄遣いすることになると考えられがちだからだと思います。確かに、当座の仕事に関すること以外に話をすることは無駄に感じるかもしれませんが、逆に、職場では仕事以外のことしか話すことができないと、人間関係がギクシャクして、働きにくくなってしまいます。もちろん、勤務時間中に無制限にどんな話をしてもよいということにはならないと思いますが、人間関係を円滑にするために、ある程度の会話は許容されるべきだと思います。

話しを組織開発に戻すと、早瀬さんは、組織開発を目的とした対話の重要性について説明しておられますが、私は、日本で発展してきた、QCサークル(小集団活動)は、組織開発のための対話と同様の効果を発揮してきたと考えています。というよりも、QCサークルは、それを実践することで、同時に組織開発を行うことにもなっていたと考えます。

QCサークルは、形式的には、製造業などで、製造現場の従業員たちが、直接、自分たちの関わる仕事について、自ら改善テーマを選び、また、自ら改善策を発見し、さらにそれを実践していくための集団です。しかし、QCサークルの実質的な目的は、改善活動を通して、チームメンバー同士の相互理解を深めたり、能動的、自律的な活動を経験することです。このQCサークルについて、早瀬さんは言及していませんが、私は、QCサークルは組織開発のための行動そのものになっていると考えています。

2024/3/14 No.2647

 

プロセス・ロスとプロセス・ゲイン

[要旨]

組織開発の主な対象は、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスですが、技術的課題、すなわち、主にタスク・プロセスを改善する適切な方法と、適応課題、すなわち、主にメンテナンス・プロセスを改善する適切な方法を、上手く組み合わせることが鍵になります。その結果、従業員の潜在的な能力を上回る生産性を発揮できることもあれば、逆に、潜在的な能力を十分に発揮できないこともあります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、コンサルタントの早瀬信さんたち3人の著書、「いちばんやさしい『組織開発』のはじめ方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、組織開発の対象は、課題を氷山にたとえると、海面の上に出ていて目に見えるコンテント、海面からすぐ下のタスク・プロセス、海面から深い部分にあるメンテナンス・プロセスに分かれており、コンテント、及び、タスク・プロセスの一部は、既存の方法で解決できますが、メンテナンス・プロセスは既存の方法では解決できないことから、組織開発によってメンテナンス・プロセスを解決できるようにすることが、業績を高める鍵になるということについて説明しました。

これに続いて、早瀬さんは、プロセス・ロスとプロセス・ゲインについて述べておられます。「組織開発は、このタスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスの両方を見直していく活動です。なかなか表に出てこない水面下にあるものを、テーブルの上に載せる。そして、それをめぐってみんなで話し合って問題解決を図り、ひいては良い組織にする活動、それが組織開発なのです。

起こっている事象がどのようなものであれ、それを組織の課題であるととらえ、みんなで検討し、改善してきます。イメージしやすいように(中略)、綱引きで説明してみます。みんなが持てる力をフルに発揮することで綱引きは成立します。平均的な力量のメンバーが4人いるなら、力の総量は4。でも、さまざまな要因で4にならないことがあります。要因は、大きく2つ考えられます。1つは技術的な問題。例えば、引く方向がバラバラであれば、力が結集しないことになります。

つまり、綱の引き方という、タスク・プロセスに課題がある、という状態です。もう1つ考えられるのは、4人の気持ちがバラバラで本当の力が出ないこと。例えば、メンバーの中に、仕事のミスで怒られてしまい、気分が沈んでいる人がいるのかもしれません。あるいは、個人的な心配ごとが頭から離れない、ということもあり得ます。これらはメンテナンス・プロセスに課題があることを示しています。4人で綱引きをするとき、4人の力を合わせれば『4』になるべきところが、そうならない場合がある。

社会心理学者のスタイナーは、技術面、もしくは気持ち面での要因で起こるロスのことを、『プロセス・ロス』と名付けました。そして、プロセス・ロスについて、次の公式を示しました。“実際の生産性=潜在的生産性-欠損プロセスに起因するロス”本書の監修者である中村和彦さんは、著書『入門組織開発』で、次のように説明しています。“日本企業における現代的課題のほとんどは、このプロセス・ロスに当てはまります。仕事に対するやる気、仕事の意味の腹落ち感、個業化による協働作業の減少、多様性の増大による協働の難しさなど、日本企業にはプロセス・ロスが生じる多くの問題があります”

ここでも、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスの両方を検証することの必要性が、端的に示されると言えるでしょう。なお、スタイナーは、『プロセス・ゲイン』という概念も紹介しています。組織における相乗効果で、メンバーの潜在的な能力を超えて、より大きな力を発揮することがあり得るという考え方です。話し合いによって、それまでに誰も思いつかなかったビジネスのアイデアが生まれる、というのはその一例です」(54ページ)

今回の引用した部分は、抽象的なところがあり、理解が難しい部分もあると思います。簡単に言えば、課題解決のためには、きちんとした方法を取り、かつ、従業員の気持ちが揃っている必要があるということでしょう。そして、それらが噛み合えば、プロセス・ゲインが得られますが、噛み合わなければ、プロセス・ロスが発生してしまうということでしょう。

そこで、経営者の方は、プロセス・ロスが発生することを避け、プロセス・ゲインが得られるように、組織開発をすることが大きな役割になっていると言えます。私は、業績を高めるためには、組織的な活動が重要と考えていますが、それは、組織的活動によってプロセス・ゲインを得ることができるからだと考えています。そこで、これから業績を高めたいと考えている経営者の方は、組織開発によってプロセス・ゲインを得ることに注目することが鍵になると思います。

2024/3/13 No.2646