鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

石ころを千円札で包む

先日、ベストセラー「千円札は拾うな」

( http://amzn.to/2vHWwXU )の著者で、

ワイキューブの元社長の安田佳生さんが

Podcast番組( https://goo.gl/72PWKv )で

次のようなことをお話しされておられ

ました。


「石ころを100円で売るために、

販売促進費を1,000円かけても

よいとしたら、石ころを千円札で

包んで売ればよい。


買った人は900円得をするからだ。


でも、売る側は900円の損になる

から、誰もこんなことはしない。


ところが、赤字の会社は、石ころを

千円札で包んで販売していることと

同じことをしているのだが、それに

気付いている人は少ない。


販売員の給与や、会社の経費は、

本来は商品を売るための費用、

すなわち販売促進費なのであって、

それらが売上高よりも多い状態で

あれば、当然、赤字になる。


だから、経営者は、人件費などを

販売促進費と考えなければならない」

ということです。


これはこれで、なるほどと私も思う

のですが、さらに、安田さんがどこ

まで考えているかまでは分かりま

せんが、この考え方は、活動基準

原価計算(Activity Based Costing,

ABC)の考え方であると、私は思い

ました。


販売員がいて商品を販売している

小売業では、販売員の給与は、

「販売費及び一般管理費」として

計上され、一方で、商品の原価は、

ほとんどが商品の仕入代金です。


このような費用の計上の仕方が

間違っているわけではないのですが、

財務会計の費用は、主に、何に対して

支払ったか(形態別分類)という

観点で作成されているので、経営者の

意思決定を支援するための情報には

向いていないものとなっています。


一方で、ABCはどのような目的で

費用が支払われたのかという観点

(機能別分類)で原価が計算されて

いるので、経営者の意思決定を支援

することに向いている情報と言う

ことができます。


というよりも、そもそもABCは

経営者の適切な意思決定を支援する

ことを目的として計算されています。


今回の結論は、一般的な財務会計

経営者の意思決定には不向きであり、

経営者の意思決定のための会計を

活用することが大切ということです。


中小企業の場合、普段は、財務会計

税務会計)の情報を目にすることが

多いと思いますが、それだけでは

物足りなさを感じることは当然です。


そのためにも、管理会計も導入する

ことをお薦めしたいということです。

 

 

 

 

 

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頭に入っている

今回も、当然すぎるということについて

書きます。


事業の改善のお手伝いをしている会社の

経営者の方と、よく、次のような会話を

します。


「貴社の事業計画書はありますか?」


「それは、私の頭に入っています」


「貴社の資金繰表はありますか?」


「それは、私の頭に入っています」


「貴社の前月の損益計算書はありま

すか?」

「それは、私の頭に入っています」


「それでは、それらの頭の中に入って

いる資料を、来週までに書面にして

おいてください」


「わかりました」


このような会話をしたあと、1週間を

経過しても、ほぼ、書面は完成して

いません。


このように書くと、「頭に入っている

というのは嘘なのだから、そのような

ことはやめるべきだ」と私が指摘

しようとしていると、多くの方は、

お考えになるかもしれません。


しかし、必ずしもそうではありません。


事業の現場に携わっている経営者の

方は、事業の見通しも常に立てている

であろうし、資金繰りもおおよそを

把握しているであろうし、収支も

おおよそが分かっていると思って

います。


ただし、「頭に入っている」という

レベルでは、精度はかなり低いという

ことは事実だと思います。


このような状態は、無借金の会社で

あれば、問題はないと思います。


ただ、数名~数十名の従業員の方を

雇っている、銀行から融資を受けて

いるという、ある程度の組織的な

活動をしている会社では、経営者

だけが事業の情報を頭に入れている

だけでは、不都合なことが起きて

くることは間違いないでしょう。


そこで、その次に問題となってくる

ことは、経営者の方が、資金繰や

収支状況を文書にする時間が確保

できないということです。


とはいえ、「時間を確保できない」と

記載したのは不正確で、優先順位を

誤っているということが私の考えです。


すなわち、事業計画書、月次損益

計算書、資金繰表がなければ、事業

活動を営むことはできないという

ことが私の考えです。


これに対しては「それらがなくても

実際に事業はできる」という反論が

あるかもしれません。


しかし、事業計画書、月次損益

計算書、資金繰表なしで事業をして

いるとすれば、それは成り行きで

事業をしているだけで、きちんと

経営者の意図するところを経営者の

管理のもとに事業が営まれている

とは言えないでしょう。


そして、そのような主体性のない

事業は、早晩、行き詰ることは

間違いないでしょう。


また、事業計画書などを書面にする

ことによって、計画に矛盾点や思い

違いはないかということが明確に

なることで、より精緻な指示ができる

ようになったり、従業員や銀行の間で

情報が共有化されて、より、組織的な

活動ができるようになります。


このようなことは理解はしてもらえる

ものの、これを実践するには、もう

ひとつ、心理的な壁があると思います。


それは、経営者の方が、数字が苦手で

あったり、文章を書くことが苦手で

あったりすることです。


これについては、税理士の方や銀行

職員などの専門家の助力を得るか、

できれば、経営者ご自身が数字に強く

なったり、思いを文字にすることが

できるようになる能力を身に付ける

ことをお薦めしたいと思います。

 

 

 

 

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中小企業は弱者か

今回は、中小企業白書に記載されて

いた、中小企業政策に関する内容に

ついてご紹介します。


まず、中小企業白書の一部を抜粋

した文書をご紹介します。


「中小企業従事者についても、実質

的な所得水準、生活水準が向上して

おり、中小企業と大企業の格差は

依然として存在するものの、格差の

実態の意味を変容させている。


すなわち、細分化された専門分野

(いわゆるニッチ分野)での高い

技術力を背景に、国際市場の一定

割合を占有する等、極めて高い

競争力を有する中小企業(いわゆる

オンリーワン企業)や大企業への

企画提案型企業に加え、自らの

知識、ノウハウ等を的確に活用

しつつ新たな事業を開始する中小

企業など、我が国の経済構造に

変化を促す活力ある中小企業、

新規企業が出現するようになって

おり、このような中小企業が将来の

我が国経済活性化の新たな推進役に

なっていくものと期待される。


このため、平均値のみを比較し、

大企業に比して弱い存在として

中小企業を一律にとらえることは

適切ではなくなってきている。


以上のように、中小企業基本法

制定された時の、中小企業の企業

数の過多性、企業規模の過小性と

いう画一的な中小企業像を前提と

した大企業と中小企業との間の

格差是正』という政策理念と

これに基づく政策体系は、もはや

現実に適合しなくなっている。


なお、『行政改革委員会最終意見』

では、『中小企業=弱者として

講ずる一律・硬直的な保護策は、

効率性を阻害し、能力ある中小

企業、意欲ある創業期の中小企業の

成長機会を奪い、中小企業全体の

活力を喪失させる』との指摘が

なされている」


ここに書かれている内容は、多くの

方に納得していただけるものだと

思います。


要は、規模が小さくても大企業と

対等の活動ができる中小企業が

多く現れており、そのような状況に

応じた中小企業施策に転換する

という内容です。


そして、最後の『中小企業=弱者と

して講ずる一律・硬直的な保護策は、

効率性を阻害し(中略)中小企業

全体の活力を喪失させる』という

部分は衝撃の大きい文書であると

思います。


言い換えれば、実力のない中小

起業は保護しないということです。


ですから、これからは、中小企業と

いえども、弱者ではないものとして

扱われる訳ですので、きちんとした

能力を求められるということです。


きょうの結論としては、これなの

ですが、ここでもうひとつお伝え

したいことがあります。


引用した中小企業白書は、

平成12年版だということです。


したがって、中小企業施策の変更は

平成11年のことです。


現在は、それから約18年が経って

いるということです。


政府は『中小企業=弱者でない』と

いうスタンスになったということは

あまり感じないかもしれませんが、

徐々にそれが現れているとも私は

思っています。


その具体的な内容は別の機会に

お伝えしたいと思いますが、単に

「中小企業だから事業がうまく

いかなくても仕方ない。だから

政府はもっと支援すべきだ」と

いう考えは、これからはとる

べきではないと私は考えています。

 

 

 

 

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棚卸資産の評価

今回は、単純に、棚卸資産の評価に

ついて説明します。


棚卸の評価については、評価基準、

評価方法、評価単位という3つの

評価に関するルールがあります。


このうち、評価基準と評価方法は、

言葉だけでは違いが分かりにくい

ものですが、評価基準とは、どの

タイミングの価額を評価の基準と

するのかというルールで、一方、

評価方法とは、棚卸資産をひとつ

ずつ評価するのか、まとめて評価

するのか、まとめて評価する場合、

どのように評価額を計算するのか

というルールです。


具体的には、評価基準は、(1)

棚卸資産を取得した時の価額

(取得原価基準)、(2)棚卸

資産を評価する時の時価(時価

基準)、(3)取得した時の価額と

時価のいずれか小さい方の金額

(低下基準)の3つですが、

一般的な棚卸資産は低価基準で

評価することが原則となって

います。


(この説明の仕方は、厳密には、

棚卸資産会計基準に示されている

ものとは異なりますが、理解を

容易にするために、あえて変えて

いることをご了承ください)


そして、評価方法は、(1)個別法、

(2)先入先出法、(3)平均原価

法(総平均法と移動平均法)、(4)

売価還元法、(5)最終仕入原価法が

あります。


それぞれどのようなものかという

ことについては、この記事では

説明を割愛します。


また、評価単位とは、棚卸資産

1つずつ評価するか、複数で評価

するかというルールです。


原則は1つずつですが、複数で

評価することが妥当という場合も

あります。


例えば、自動車とその付属品を

評価する場合、それぞれ個別に

いくらで売れるかという見方で

評価するよりも、合わせて販売

するときの価額で評価することが

妥当ということができます。


ところで、これらの棚卸資産

評価に関するルールは、なぜ

大切なのでしょうか?


簡単に言えば、棚卸資産の評価は

難しいということです。


例えば、会社の建物は取得価額を

減価償却していくだけで価額を計算

することができますが、棚卸資産は、

短期間でたくさんの数量を扱うため、

単純に計算できないということです。


だからこそ、複雑な規則があります。


でも、これも当たり前のことであり、

大切なことは、このルールを守ると

いうことです。


私はこれまで、正確な会計情報を

把握したり銀行に提供することが

大切だと述べてきましたが、規則に

基づかない方法で棚卸資産を評価

することは避けなければなりません。


確かに、会計のルールに基づく価額が

必ずしも正確な価額ではないという

こともありますが、それでも、会計の

ルールに基づく価額には合理的な

理由があります。


会社の事業の改善のためには、統一

されたルールに従うことが基本で

あると私は考えています。


なお、棚卸資産に関する知識は、

拙著「図解でわかる棚卸資産

実務いちばん最初に読む本」

( http://amzn.to/1UjplCq )を

ご活用いただきたいと思います。

 

 

 

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ステークホルダーも組織の一員

ステークホルダー(利害関係者)とは、

会社の事業に関わる人(組織)を指し

ます。


より具体的に示せば、顧客、株主、

銀行、仕入先、行政機関、地域社会

などです。


ところで、会社を組織としてとらえた

とき、その組織に所属する人はどう

いう人たちでしょうか?


多くの場合、経営者と従業員を指すと

考える人が多いと思います。


それは、「組織は人で構成される」と

考えることが一般的だからでしょう。


この考え方が間違っているわけでは

ないのですが、事業を運営する場合、

会社の組織はステークホルダー

含まれていると考えるべきと私は

考えています。


例えば、会社と従業員の関係は、

法律上は雇用契約に基づいて

いますが、経済的には労働力の

提供と賃金の支払という関係で

成り立っています。


これと同様に考えれば、仕入先は

商品の提供を受ける代わりに代金を

支払う相手であり、顧客は代金を

受け取る代わりに商品を引き渡す

相手です。


株主は、出資金の提供を受ける

代わりに配当金を支払う相手で

あり、銀行は融資を受ける代わりに

金利を支払う相手です。


行政機関は、税金を支払う代わりに、

社会全体の調整を行ったり、時には

保護を受ける相手です。


地域社会は、直接の金銭の支払いは

ないものの、良好な関係を維持する

ことで、潜在的な顧客を産み出したり、

優秀な従業員を育成してくれる相手と

なります。


ここまで書いたことは、多くの方が

理解されておられることであり、

かつ、良好な関係を作るべき相手で

あると考えておられることでしょう。


しかし、組織を人の集まりという

考え方ではなく、事業で最大の利益を

得るために経営者が関与する相手と

とらえた場合、関わり方が変わって

くるのではないでしょうか?


例えば、文房具の通信販売で有名な

アスクルでは、飲食店向けの事業も

行っていますが、食器やユニフォーム

などは、過去の販売先からどのような

デザインが優れているのかという

情報を収集し、より使いやすいものを

企画製造して販売しています。


飲食店で使う器具は、かつては、

「社内」で検討していたものですが、

仕入先からより有益な情報が得られる

ようになり、このような関係にある

仕入先は、事業にとって強力な協力者

ということになるでしょう。


これについても多くの方は理解して

おられるでしょう。


ただ、今回お伝えしようとしたのは、

ステークホルダーを自社の組織の

一員と捉えているかどうかという

ことです。


仕入先だから、こちらの思い通りに

ならなければ取引を解消しよう」とか、

「うるさい顧客にはもう販売しない」

というお金だけの関係になっていない

でしょうか?


さらに、最近、問題になっている

ブラック企業というのは、従業員で

さえ、消耗品のように扱っても

構わないという考えによるものでは

ないでしょうか?


経営者の役割を「ステークホルダー

構成される組織の利害関係を上手に

調整し、最大の効果を得ること」と

定義した場合、「思い通りにならな

ければ…」という考え方で行動して

いる経営者は、あまり評価されない

方だと私は考えています。

 

 

 

 

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経営者保証を外すには

最近、自社の融資取引の条件となって

いる、経営者の保証を解除するには

どうすればよいかという相談を受ける

ことがあります。


まず、どのような会社は経営者の

保証なしに融資をしてもらえるのか

という目安は、中小企業庁金融庁

公表している、経営者保証に関する

ガイドラインに示されています。


(ご参考→ https://goo.gl/2HjSWS


そのポイントは次の通りです。


(1)会社と経営者の資産が区別

されている。


(2)会社の業績が良好である。


(3)会社の財務状況について、

適宜、情報開示が行われいる。


少し本旨から外れますが、よく、

報道機関は、銀行は経営者の資産に

頼って融資をしているというような

報道をしていますが、それは誤解で

あると私は考えています。


むしろ、経営者との保証契約を

結んだり、万一、会社が借入の返済を

滞ったときに、保証人に返済を求め

たりするという手間が増えてしまう

ので、経営者保証がいらないような

会社に融資をする方が楽であると

考えていると思います。


そうはいっても、前述のような条件を

満たさない会社が多いことから、

経営者の保証を求めざるを得ない

ようです。


ただ、それも、経営者の財産をあてに

しているということでもありません。


そもそも、経営者に潤沢な財産が

あれば、会社は銀行から融資は

受けません。


経営者の財産を会社につぎこんでも

それでも資金が不足するから、

銀行から融資を受けていると考える

ことが自然でしょう。


では、なぜ銀行が経営者に保証人に

なってもらっているかというと、

中小企業は、会社と経営者は、

実態としては同一人物であると

銀行は捉えているからです。


例えば、事業のための運転資金と

して受けた融資金を、経営者が

個人的に使ってしまい、その後、

会社が倒産したときに、経営者が

保証人になっていなければ、銀行は

経営者に対してお金を返すことを

求めることができなくなります。


これは極端な例ですが、銀行が

経営者に連帯保証を求める背景

には、公私混同や放漫な経営を

牽制することが主な目的になって

います。


話しを戻して、前述の3つの

を満たせば、経営者

保証を外してもらえる可能性は

高くなります。


しかし、実際には、一朝一夕に解除

してもらえる例は少ないようです。


その理由のひとつは、3つの目安は

明確な基準が示されていないこと

です。


業況がよい会社、資産の区分、情報

開示の程度は、銀行の主観によって

判断されるため、融資を受けている

側が目安を満たされていると考えて

いても、必ずしも銀行側が保証を

解除してくれるとは限りません。


これは、融資を受けている側に

不利とは思いますが、前もって、

保証を解除して欲しいと考えて

いるが、どういう状態になれば、

保証を解除してもらえるのかと

いうことを伝えて、それを満たす

ようにしてから解除をしてもらう

という方法を踏むことになる

でしょう。


もうひとつの解除が難しい理由は、

銀行側は現状を変えたがらない

場合もあるようです。


これは論理的ではないので、説得

して解除してもらうしかないの

ですが、銀行職員としては、

融資条件を緩める(=保証を解除

する)ということを決断する

ことは、心理的に負担が大きい

こともあるようです。


これは、規模の小さい銀行ほど

その傾向があるようです。


仮に、前述の3つの目安を満たして

いるのにもかかわらず、それでも

明確な理由を示さずに解除に応じ

ようとしない銀行がある場合は、

ほかの銀行に借り換えをすると

いうことを示唆するなどして、

解除を交渉するとよいでしょう。


ここで、保証解除に関して注意して

いただきたいことを述べたいと思い

ます。


金融庁中小企業庁も、経営者保証を

解除することについては、肯定的に

考えているものの、とはいえ、保証を

条件としないことによって、融資額が

減ってしまう可能性もあります。


ある程度事業が軌道に乗っている

会社であれば別ですが、これから

創業しようとする会社、創業して

間もない会社は、経営者保証を

条件としないことで、融資額が

減らされてしまうこともあります。


これはケースバイケースで判断する

ことになりますが、あまり、保証を

解除することにこだわり過ぎると、

かえってそれが資金調達の足かせに

なる可能性もあるということに

注意が必要です。


最後に、この記事の本旨とは直接

関係ないのですが、経営者保証が

条件とされない融資取引をしている

会社というのは、銀行から評価

されている会社であるということを

述べたいと思います。


当初の目的としては、経営者保証を

外すということですが、それは

銀行から評価されているという

証でもあるので、多くの経営者の

方には、経営者保証を外して

もらえるような会社を目指して

いただきたいと私は考えています。

 

 

 

 

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強気の折衝は得策ではない

私が銀行勤務時に渉外係で融資先を

訪問していたときのことですが、

半数以上の融資先の経営者からは

いつも叱られていました。


叱られる内容は、礼儀作法や、その

会社のローカルルールを守ること、

銀行の融資姿勢や金利の高さなど、

様々でした。


確かに、私も発展途上の人間で

あった(いまでもそうですが)ので、

叱られることがあっても当然なの

ですが、それにしても叱られ過ぎ

ではないかと思うことはよくあり

ました。


はっきり言えば、理不尽なことで

叱られることもありました。


要は、銀行職員はいつも叱られる

対象であったということです。


では、なぜ一方的なのかというと、

融資交渉でイニシアティブをとり

たいという意図によるものでしょう。


もちろん、融資を受ける側が何でも

銀行の意向に従う必要はなく、主張

すべきことは主張して構わないの

ですが、中には、聞かれたくない

ことを聞かれないようにするという

ことも目的としていることもあり

ました。


例えば、前々期は黒字決算であった

会社が、前期は赤字を計上した上に、

融資の増額の依頼があったとします。


そういったときに、「前期は赤字と

なった原因をどのように分析して

いますか」などと社長に訊くと、

極端な場合、「うちの会社に融資を

したくないのか?」と、ちょっと

脅し気味に返答されることもあり

ました。


すべての会社がこのような会社では

ありませんが、どちらかというと、

丁重に対応を求められる会社の方が

多かったと記憶しています。


ここで、「融資を受ける側がそんなに

横柄なら、融資を断ればよいのでは?」

とお考えになる方も多いと思います。


しかし、それはなかなかできません

でした。


その理由のひとつは、競合する銀行が

あったからです。


多少は無理を聞き入れなければ、他の

銀行に融資シェアを奪われるという

状況がありました。


もうひとつは、私が勤務していた地方

銀行は、明確に融資を断る客観的な

状況がなければ、なかなか融資を断り

にくい状況にありました。


すなわち、業況がかなり悪化したと

いうような状況でない限り、その

会社と融資取引を解消すると、

「●●銀行は、○○会社を見捨てた」

というような風評が営業地域に

広がってしまいかねないので、

単純に、「あの会社は気に入らない」

という理由だけでは融資を断ることは

できませんでした。


それでも、過剰な要求をする会社は

融資を断ることはありました。


その際も、単に「融資はできません」

という説明ではなく、十分に時間を

かけて説明をして断るという手順は

欠かせんませんでした。


ここまでの文章では、融資を受ける

側の会社の社長はひどい人が多い

という内容になっていますが、

必ずしもそうとは限りません。


ひとつは、融資先の経営者の方も、

当然のことながら、多くの顧客に頭を

下げて売上を獲ってきています。


ですから、自社に来る銀行の渉外係の

気持ちは十分に理解しているでしょう。


そして、銀行に対して金利を支払って

いる自社は、銀行から見れば顧客で

あるわけですから、銀行に対しては、

きちんと言いたいことは言おうとする

気持ちになるでしょう。


そして、自社担当の渉外係が、自分

より、年下の場合が多い訳ですから、

やはり粗が見えれば指摘したくも

なるでしょう。


そして、会社経営者が最も恐れる

ことは、「貴社から申し込まれた融資は

お受けできません」と銀行から言われる

ことです。


そのようなことを言われないようにする

ために、銀行には強気で折衝に臨みたい

という気持ちになるでしょう。


ここまで、私の経験を書きましたが、

結論は、これからは、単に強気だけで

銀行に融資折衝をすることは得策では

なくなりつつあるということです。


確かに、いい意味で強気になることは

大切ですが、単に表面を取り繕う

だけの強気では、銀行は融資を引き

受けなくなるということです。


その背景としては、銀行の数が、

合併や統合によって減ってきている

一方で、銀行職員1人あたりの担当

先数が増えていることから、融資

交渉のための時間はあまり割いて

もらえなくなりつつあります。


そのような状況であれば、きちんと

した説明がなければ、銀行職員に

とって負担の大きい、赤字の会社で

説明も十分に聞くことができない

という会社への融資は断られて

しまう確率は高まるでしょう。


また、最近、金融庁は金融検査

マニュアルを廃止する意向を示す

など、銀行の自主性を重んじる

方針を示しています。


これは、銀行にとっては、事業の

収益は自己責任であるということ

でもあります。


だからこそ、手間のかかる融資先

への融資は避けようとする傾向が

強まるということです。


このように書くと、会社は銀行の

手間を減らす配慮をしなければ

ならないのかと感じる方もいると

思います。


しかし、銀行は融資審査の手間を

減らすということを求めている

訳ではありません。


「中小企業の会計に関する基本要領」

( https://goo.gl/hR8Y2x )に基づく

会計を行い、月次決算を行うだけで、

多くの場合は、銀行は十分な情報を

得ることができます。


むしろ、会計の体制をあるべき状態に

するということです。


そうすることが、融資対策だけで

なく、自社の事業の改善にも活用

できるようになります。


ちょっと青臭いですが、これからは

正攻法でなければ融資は受けにくく

なると私は考えています。

 

 

 

 

 

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