鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

他人を巻き込む力

私はコンサルタントなので、非論理的なこ

とは述べないように気をつけているのです

が、そうは言っても、経営は人が有機的に

関わることがらですので、非論理的なこと

も考えながらコンサルティングに臨んでい

ます。


(このようなことは、わざわざ述べるまで

もないようなことですが)


本題ですが、先日、Web制作・ライター

をされておられる林花代子さんの処女出版

となる「まるごとマルタのガイドブック」

( http://amzn.to/2wOlmFL )の出版記念講

演を聴いてきました。


ここで、いきなりマルタという国が登場し

ますが、マルタについて知っている方は少

ないと思いますので、マルタについて少し

説明します。


外務省のWebPageによれば、マルタ

の国土面積は淡路島の約半分、人口は約

43万人の、EU加盟国です。


マルタ島は、イタリアの南部のシチリア島

から約90km南に位置しており、私も、

林さんと出会う前は、マルタを国とは思っ

おらず、イタリア領の島のひとつだと思っ

ていました。


実際には、マルタは19世紀から英国領と

なっており、1964年に英国から独立し

ています。


したがって、公用語はマルタ語と英語で、

マルタの方の89%は英語を話すため、日

本からも英語の語学留学先として選ぶ人が

増えているそうです。


ちなみに、女優の柴咲コウさんも、1か月

間、マルタにホームステイをしたことがあ

るそうです。


これも、ちょっとした情報ですが、マルタ

には、人の数よりも多くの数のねこがいる

らしく、ねこ好きの方にはさらに魅力的か

もしれません。


世界史的には、1989年に米国のブッ

シュ(シニア)大統領と旧ソ連のゴルバ

チョフ議長(当時)が、冷戦の幕引きとな

る会談(マルタ会談)をしたところとして

登場します。


また、第一次世界大戦時に、英国の要請で

地中海に派遣された旧日本海軍駆逐艦

「榊(さかき)」が潜水艦の攻撃を受けて

大破し、その際に亡くなった59名及び戦

病死者12名を加えた71名をまつる慰霊

碑がマルタの英軍墓地内に建てられている

そうで、意外な面で、日本とのつながりも

あります。


話しを本題に戻すと、林さんは、大学を卒

業後、いったん就職したものの、ずっと海

外留学をしたいという思いを持ち続けてい

たそうです。


そして、37歳のときに、海外留学を決意

し、マルタに3か月間の留学をしたそうで

す。


(「なぜマルタに?」という疑問をお持ち

になる方も多いと思いますので、その経緯

については、こちらをご覧ください。→

https://goo.gl/ECnkan


3か月間とはいえ、その留学期間中に、日

本人としては大雑把(?)な林さんから見

てもさらに大雑把だけど、温厚な人柄のマ

ルタの人たちと、コンビニも地下鉄もなく

てちょっと不便だけど、四国で育った林さ

んには第二の故郷にも思える環境に、林さ

んはすっかり虜になったそうです。


また、その留学という経験によって、「人

生いくつになっても自分のしたいことがで

きる」ということを林さんは確信したそう

です。


そして、日本にはまだまだ知られていない

マルタを日本に紹介すること、そして、人

生を変えるようなきっかけを得た体験を、

他の人にも持って欲しいという思いから、

現在はマルタに関する情報をSNSやブロ

グで発信するほか、マルタへ留学したいと

いう方の相談にものっているそうです。


ここまでは林さんの紹介ですが、私が林さ

に惹かれた経緯はここからです。


私が林さんと出会ったのは、約1年前、林

さんが、ある出版社の出版企画のプレゼン

テーションに参加ていたところを、私がオ

ブザーバーとしてそれを見学していたとき

でした。


林さんは、ご自身の体験や、マルタに関す

る情報を発信する書籍を出版したいとプレ

ゼンテーションをしましたが、その場では

採用されませんでした。


ただ、私は、林さんの情熱を感じたので、

その後、何人かの出版編集者さんとの接触

の機会を取り持つなどの協力をしてきまし

た。


結果として、林さんは独力で、前述のご著

書を出版するまでに至りましたが、林さん

ご自身もお話ししている通り、あまり知ら

れていない国のガイドブックを商業出版さ

せるには、相当な努力があったようです。


ただ、もっと驚くことは、今回ご出版され

たガイドブックに載っている内容は、出版

が決まっていなかった昨年のうちに、林さ

んがマルタへ行って、すでに取材していた

そうです。


そもそも、どの出版社も手を挙げていなく

ても、林さん自身は出版を決めていたとい

うことです。


そして、マルタでの取材では、最初は「マ

ルタを日本に紹介するガイドブックを作る

ために、日本から来たので、取材に協力し

てください」と取材依頼をしていたそうで

すが、だんだん面倒になり、「私は日本の

ジャーナリストです」と言って、取材をす

るようになったそうです。


これは、裏を返せば、取材をしたのに出版

できなかったら、取材協力者を偽ることに

なるわけですが、林さんはそれくらいの覚

悟で取材していたということです。


とはいえ、温厚なマルタの方たちは、取材

に協力的だったそうです。


むしろ、レストランでは料理をただで提供

してくれたり、ホテルも無料で宿泊させて

くれるところもあったそうです。


それは、林さん自身が自ら施設を利用して

生の記事を書くという方針を実践するため

の、大きな助け舟となったようです。


ただ、その助け舟は、マルタの人たちの人

柄だけでなく、林さんから出ていた情熱を

感じたことも大きな一因ではないでしょう

か?


そういう私も、微力ながら林さんを応援し

たいという気持ちにさせられてきました。


また、出版が実現に至ったのも、林さんの

熱意を感じた人たちが、たくさん林さんの

周りに集まったからだと私は思います。


実はこのような例はあまりないのですが、

他人を巻き込む魅力を持っている人、すな

わち、いい意味での人たらしを見かけるこ

とがあります。


そういった人は、理屈抜きで協力者を巻き

込み、難しいと思われる事業を成功させて

しまったりします。


そういう人が会社経営者であると、従業員

の方々の団結力が高まり、よい業績につな

がります。


ただ、どうすれば人たらしになれるのかと

いうことは、なかなか理屈では説明するこ

とはできません。


それには精神力を鍛えたり、見聞を広めた

り、いろいろな体験を積むということが求

められるでしょう。


そして、その中には、林さんのように、温

厚な人たちがたくさんいるマルタに留学す

るという方法も含まれているのかもしれま

せん。

  

 

 

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リースに関する誤解

先日、リースに関する私へのインタビュー

が、週刊東洋経済に掲載されました。


(ご参考→ https://goo.gl/xgDuqf


このインタビューを受けた時にも少し感じ

たのですが、ビジネスマンの方々の間で、

リースについて誤解されている点があると

感じましたので、今回は、リースに関する

誤解の代表的なものを2つ説明したいと思

います。


ひとつめは、リースによって設備(リース

物件)を調達すると、その設備はリース会

社の所有物であるから、設備の利用者

(ユーザー)はリース物件を持つことには

ならない、すなわち、貸借対照表には計上

されないと考えている方が多いということ

です。


このような理解は、半分は正解で、半分は

誤りです。


正解の部分は、法的には、リース契約は賃

貸借契約であり、したがって、リース物件

の所有権はリース会社にあり、ユーザーの

所有物ではないという点です。


では、誤りの部分は、これは、会計を学ん

だことがある人は理解しておられるのです

が、リース契約をすると、リース物件相当

額(※)をリース資産として、固定資産に

計上する仕訳取引をします。


(※:リース資産に計上する金額の算定に

は細かい規定がありますが、ここでは理解

を容易にするために、便宜的に、「リース

物件相当額」として記述します)


それと同時に、同額をリース債務として、

負債勘定に計上します。


リース資産は毎年減価償却し、また、リー

ス負債はリース料の支払に従って減額して

いきます。


このように、会計上の規則(リース会計基

準)では、リース物件はユーザーの資産と

みなして、貸借対照表に計上され、また、

今後支払う見込みであるリース料全額も、

リース負債として負債の部に計上します。


つまり、会計の考え方からは、リースに

よってリース物件を調達した場合は、それ

は、リース会社からお金を借りた場合と同

様に扱われるということです。


(ただし、リース資産の減価償却は、自社

資産の減価償却の方法とは異なる方法で計

算されます。


また、リース負債の減額方法も、単にリー

ス料相当額を減額するのではなく、細かい

規定があります。


さらに、リース物件相当額がユーザーの貸

借対照表に計上されるからといって、リー

ス会社は、それを自社の資産として貸借対

照表に計上しないということではありませ

ん)


ところで、この誤解があると、どのような

問題があるかというと、リースで設備を調

達した会社が、前述のような誤解をしてい

て、リース物件は借金で調達したわけでは

ないと認識する一方で、その会社に融資を

している銀行から見ると、その会社はリー

ス料総額相当の借金をしていると認識し、

両者の間で認識の相違が起きるということ

です。


ここで、やっかいなことは、中小企業の会

計に関する規則の規範となっている、中小

会計指針、もしくは、中小会計要領

( https://goo.gl/GP6kD5 )では、リース

契約をした場合、リース会計基準のように

売買契約をしたという仕訳取引をせずに、

法律通り、賃貸借契約をしたという仕訳取

引をすることとしていることです。


すなわち、多くの中小企業は、リース契約

をしても、リース資産やリース債務を貸借

対照表には載せていません。


そこで、経営者の方は、リースをした場合

借金をしたわけではないと認識しやすいと

いうことです。


しかし、これは銀行にもよりますが、法的

には、ユーザーはリース料総額を支払う義

務を追っているので、リースを利用してい

る会社は、残りのリース料相当額の負債が

あるとみなして融資審査をしている可能性

があるということです。


(なお、リース会計基準においても、リー

ス契約のすべてを売買取引として扱うので

はなく、条件によっては賃貸借契約として

扱うリース契約もありますので、ご注意下

さい)


ここはややこしいのですが、リースをする

ことは、借金をすることであると考えるこ

とをお薦めします。


ただし、これをもって、リースは利用を避

けた方がよいということではありませんの

で、ご注意ください。


もうひとつの誤解は、リースを利用すると

リース物件はリース会社のものだから、管

理の手間が増えるのではないかというもの

です。


これについては、結論は、「負担は増えな

い」ということです。


というのは、リース物件を管理する負担は

あるということは事実です。


しかし、リース物件も自社が所有する設備

も、いずれも大切な資産であり、自社資産

は管理の負担はないが、リース物件は借り

物だから、管理の負担があるということは

ないということです。


これも、会計について学んだことがある方

はご理解されておられますが、会社は、決

算のときに実地棚卸を行うのと同様に、固

定資産についても、きちんと使われている

か、大きな損傷はないか、盗難や紛失はな

いかということを確認しています。


リース物件についても、同様の確認をすれ

ば、特に問題はないでしょう。


普段からリース物件を大切に利用し、かつ

決算のときに前述のような確認をしていれ

ば問題はないのであって、リース契約をす

ることによって、管理の負担が「増える」

ことはありません。

 

 

 

 

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何でも屋を楽しむ

先日、バランス経営クリエイターの鈴木淑

子さんのご著書「未来につながる働き方じ

ぶんサイズで起業しよう!」

( http://amzn.to/2yef5a9 )を拝読しまし

た。


鈴木さんは、都市銀行派遣社員として働

いていたとき、弟の妻が余命3か月の宣告

を受けたことから、家族同士で相談し、鈴

木さんが、弟の2人の子どもを鈴木さんの

実家で預かることにしたそうです。


このとき、鈴木さんは、70代の父親と病

弱な母親もいっしょに暮らしていたので、

鈴木さんがフルタイムで働くことは不可能

と考え、「じぶん起業」をすることにした

そうです。


同書では、鈴木さんの経験から、いわゆる

プチ起業をする人への助言が豊富に記載さ

れていますが、その中で、私も共感した内

容についてご紹介します。


ひとつめは、「社会を変えたい!」という

思いはいちばん最後にすべきということで

す。


社会を変えたいという思いを持つことが悪

いわけではないのですが、それを最後にす

るべきという理由は次の通りです。


まず、プチ起業で取り組む仕事は、ライス

ワーク、ライクワーク、ライフワーク、ラ

イトワークの4つに分けられます。


ライスワークは生活のためにする仕事、ラ

イクワークは嫌いな仕事ではないけれど、

ワクワクしない仕事、ライフワークは天職

とする仕事、ライトワークは天命であり、

自分がライトになって社会を照らす仕事と

いうものです。


特に、ライトワークは、事業に成功した人

が、私財を投じで慈善活動をするような仕

事だということです。


鈴木さんによれば、起業した時点でライト

ワークを行おうとすると、理想と現実の乖

離が大きすぎて、燃え尽き症候群になって

しまうと言います。


鈴木さん自身もライトワーク(人身売買を

なくすためのNGOのプロジェクト等)に

少しずつかかわっているそうですが、その

NGOなどは、情熱や思いだけでなく、高

い経営スキルを兼ね備えているから成果が

得られているということでした。


私も、ときどき「社会を変えたい」という

思いを持って起業しようとしている人に会

うことがあります。


その思いは尊いものだと、私も思うのです

が、起業して直後には難しいことは当然で

あり、それなりのスキルを高めるというス

テップを踏むことは避けられないというこ

とを認識して起業に臨むべきだと考えてい

ます。


中には、むしろ、社会を変えるということ

を通して、自分の自己実現欲求を満たした

いということを考える方もいるようです。


そのことが悪いわけではありませんが、そ

れは難易度の高いことなので、安定した収

入がない時点では、まずはライスワークか

ら固めていかなければ、いきなりライト

ワークに臨んでも、無収入になってしまう

可能性が高い、すなわち、起業が失敗に

至ってしまいかねません。


ふたつめは、「何でも屋を楽しむ」という

ことです。


起業すると、事業に関するすべてのことを

事業主自身がやらなければなりません。


中には、税金の申告、ホームページの開設

などは外注することもできますが、経費を

支払う余地が少ないときは、これらも自分

でやらなければならないときもあるでしょ

う。


これについて、鈴木さんは、「画家が描い

た絵は、単なる絵具ではなく、画家の個性

や魂であるように、会社が生産した製品は

経営者の精神が躍動してできた、芸術の名

にふさわしいものである」という松下幸之

助さの言葉を挙げ、経営者として「何でも

屋」を楽しむべきと述べています。


起業家にも、それぞれ得手不得手がありま

すが、好き嫌いをして、やりたいことだけ

をやるという姿勢ではなく、事業を通して

経営者として関わることが、よい製品を産

み出すことになるということです。


これは、多くの方が理解されると思います

が、現実には、起業してから「こんなはず

ではなかった」と、感じる方は多いようで

す。


というのは、起業する動機として、自分の

思う通りの事業をするために起業をしたの

に、起業をしたら、自分のやりたくないこ

ともやらなければならなくなったというこ

とです。


ここで、経営者は、単に、やりたくないこ

ともやらなければならない役割と考えるこ

となく、経営者が事業のすべてのことに関

わるからこそ、よい製品が出来上がるとい

う考え方をすると、前向きに事業に取り組

むことができると私は考えます。

 

 

 

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君が取り組んでいる問題が赤なだけだ

先日、米国のコンサルティング会社のアー

ビンジャー・インスティテュートの著書

「自分の小さな『箱』から脱出する方法

ビジネス篇管理しない会社がうまくいく

ワケ」( http://amzn.to/2xt8aWv )を読み

ました。


原書のタイトルは「The Outward Mindset :

Seeing Byond Ourselves」(外向き志向:

我々自身の外側を見ること)であり、本の

内容は、このタイトルの方がイメージしや

すいと思われます。


ここでは、この本に書かれているいくつか

の逸話の中から、特に注目すべきものと思

われた3つの逸話について紹介したいと思

います。


ひとつめは、アービンジャーの職員である

ジョーのことについて書かれています。


ジョーには、息子と娘がおり、努めて子ど

もたちとバスケットボールで遊ぶようにし

ていたそうです。


ところが、ある時、娘から「お父さんは私

のことを嫌いなんでしょう?」と言われた

そうです。


それは、娘はバスケットボールが好きでな

いのに、父親は弟の好きなバスケットボー

ルばかりしているからという理由でした。


娘からこのように言われたジョーは、自分

が子どもたちとちゃんと遊んでいるつもり

だったのは、実は、自分が子どもたちとや

りたいことをやっていただけということに

気付いたそうです。


そして、会社においても誤った方針で活動

していて、「自分の会社が利益を得るのは

自分の会社の利益を考えていなかったと

き」ということに気付くにいたったそうで

す。


これは、稲盛和夫さんがおっしゃっている

利他行に似ていますが、ここでは、ついつ

い陥りがちな「ニセモノの外向き志向」に

注意すべきということを示唆しています。


私がこの逸話を選んだ理由は、ニセモノの

外向き志向に陥ることはよくないというこ

とは多くの方が分かっているものの、実は

正しくニセモノの外向き志向に陥ってい

て、かつ、それに自分が気付いていないと

いう例が多いように感じたからです。


いわゆる、裸の王さまに気付かずになって

しまっていたという社長をみると、このよ

うなことが原因なのだろうと思います。


もちろん、そういう私自身も気付かずにニ

セモノの外向き志向に陥る可能性があるの

で、自分自身も戒めたいと思います。


ふたつめは、外向き志向にもとづいて、債

務者に無料のサービスを提供することで業

績を向上させた債権回収会社の手法です。


この会社の創業者は、自分自身も債権回収

会社から債務履行の督促を受けた経験があ

ることから、自分が経験したことと別の方

法、すなわち債務者に誠意と敬意をもって

対応する方法で債権回収を行うことにした

そうです。


具体的には、お金を払えとは言わずに、お

金を払えるようにするための支援をしたそ

うです。


例えば、失業している債務者が就職できる

ように、債務者に代わって履歴書を書いた

り、模擬面接の相手になったり、面接の日

にモーニングコールをしたりといったこ

をしたそうです。


このようなことをした結果、収入を得られ

るようになった債務者は、この会社に対し

て、進んで返済をするようになったという

ことです。


これは、前述の、「自分の会社が利益を得

るのは、自分の会社の利益を考えていな

かったとき」の例のひとつでしょう。


みっつめは、経営難から業績を回復させた

フォードの例です。


2006年にフォードの社長に就任したム

ラーリーは、毎週、役員とのミーティング

で、計画の進捗状況を報告させていまし

た。


会社は赤字であるのに、どの役員も計画通

りに事業が進行していると報告していまし

た。


当時のフォードには、他人の足を引っ張り

合う風土があり、自らは問題があるという

報告はしにくかった状況だったようです。


そこで、ムラーリーは「うまく行っていな

いことはありますか?」と質問したにもか

かわらず、これには誰も返事をしなかった

そうです。


そんな中、役員のひとりのフィールズが担

当する部門が開発した自動車に欠陥がある

ことがわかりました。


フィールズは躊躇したものの、役員ミー

ティングで、ただひとり、自分の担当する

事業が計画通りでないことを報告しまし

た。


しかし、この報告を受けたムラーリーは、

まず、「君の状況を見る力はすばらしい」

と評価したそです。


そして、次に、他の役員に対して「フィー

ルズを助けてあげられるものはいないか」

と呼びかけ、他の役員からの支援を引き出

しました。


次の週のミーティングでも、ムラーリーは

フィールズに対して、「君自身は赤ではな

い、君が取り組んでいる問題が赤なだけ

だ」と述べて、役員同士が助け合って、会

社の問題を解決していくことが大切である

ということを理解させたそうです。


(フォードのミーティングでは、計画通り

でない状況を報告するとき、それを書き込

むチャートの色に赤を使っており、ムラー

リーの述べた「赤」とは、そのチャートの

色を指しています)


このことがきっかけで、フォードの体質が

変わり、業績が回復していったそうです。


ちなみに、2014年にムラーリーが社長

を退任した後に社長に就いた人は、フィー

ルズだったそうです。


今回は、本の中から3つの逸話を紹介しま

したが、いずれも多くの方が共感するもの

だと思います。


しかしながら、理解できるものでありなが

ら、実践は容易ではなさそうです。


私自身も、自分の事業にこれをすぐにあて

はめることはできそうにはありませんが、

あきらめずに実践できることを目指して行

きたいと思いました。

 

 

 

 

 

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写真提供:cmonville

なお、記事と写真は関係ありません。

CCC

CCCとは、キャッシュ・コンバージョン

・サイクルの略語で、米国のアップル社が

この指標を使って資金管理をしているとい

うこともあり、近年、この指標を重要視す

る会社が増えてきているようです。


すでに多くの方がご存知と思いますが、こ

こで改めてCCCの計算方法について記し

ておきます。


CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転

日数-買入債務回転日数=売上債権÷売上

高×365+棚卸資産÷売上原価×365

-買入債務÷売上原価×365


初めて見る方には、少しわかりにくい指標

かもしれません。


そこで、これに似ている、経常運転資金の

計算式を見てみましょう。


経常運転資金=売掛金棚卸資産-買掛金


この式と、CCCの計算式の違いは、CC

Cのそれぞれの項目が、何日分の売上(売

上原価)に相当するかという日数に換算し

て計算されているという点です。


実は、この日数に換算するという考え方

は、より正確に会社の資金需要を把握する

ことができます。


たとえば、ある会社が100万円の商品を

仕入れて、その仕入た時点で販売されれ

ば、一見、運転資金は不要ということにな

ります。


しかし、販売代金の回収は3か月後である

のに対して、仕入代金の支払いは1か月後

であるとすると、2か月間、100万円の

資金不足になるということになります。


ですから、銀行が運転資金の申し込みを受

けた場合、単に、売掛金棚卸資産の金額

だけでなく、回収期間、滞留期間などを勘

案して、必要な運転資金の計算を行いま

す。


(ただ、回収期間や滞留期間の情報がない

場合や、相談の時点でおおよその情報だけ

で判断する場合は、残高だけで計算するこ

ともあります)


したがって、CCCの考え方は、金融機関

の融資担当者にとっては、真新しい内容で

はなく、融資審査の基本的な知識になって

います。


しかしながら、CCCは、運転資金の効率

化を進めるために、「資材調達から製品の

納品までの期間を短縮する」という手段を

明確にし、かつ、その期間を数値で把握で

きる指標として、これを重視する会社が増

えてきていることは妥当であると思いま

す。


例えば、これまでは売上高だけで、部門や

営業部員を評価しがちでしたが、CCCへ

の貢献度で評価すれば、さらに多面的で公

平感の高い評価をすることができるように

なるでしょう。


さらに、先進的な会社では、CCCを向上

させることを、単に資金の効率化という面

だけでなく、新たな投資に振り向けるため

の資金を産み出す手法として利用していま

す。


ただ、中小企業ではここまでは実施するこ

とは難しいので、CCCを、資金の効率化

を計る指標とするだけでも大きな効果があ

ると思います。


結論は、会社の利益を向上させるには、売

上を増やすだけでなく、事業の速度を高め

ることによって、資金を効率的に活用す

る、という観点も採り入れることをお薦め

したいということです。

 

 

 

 

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残業がなくならない本当の理由

経営コンサルタント、清水久三子さんのご

著書「外資系コンサル流『残業だらけ

職場』の劇的改善術」を拝読しました。


内容は、なぜ、職場に無駄があるのかとい

うことを説得力ある根拠をもって説明した

上で、その解決策を示しています。


その具体的な内容は本を読んでいただきた

いのですが、私の目をひいた点を挙げると

「働き方改革」が叫ばれているなかで、そ

れを実現するためのプロジェクトには疑問

感じるということを清水さんは述べておら

れます。


すなわち、「ノー残業プロジェクト」、

「業務スピード改善プロジェクト」などの

プロジェクトばかりが立ち上がり、結果と

して、やることが増えてしまっている。


時短を迫られるあまり、本来はやるべきこ

とまで便乗してやらなくなってしまう。


ゴールが不明確なままなので、いったん、

結果を出しても、経営者が納得せず、また

仕切り直しをしなければならなくなる。


結局「残業ゼロの徹底」などのスローガン

を唱えるだけになったり、残業をなくすた

めの努力を従業員個人に任せ、「定時帰宅

宣言」をさせるだけに終わる、ということ

を指摘されておられます。


要は、表面的なことばかり行われるので、

いつまでも本当の時短ができないというこ

とです。


このことについて、清水さんは解決策を示

しておられませんが、私は、大きく2つの

原因があると思います。


ひとつは、働き方改革だから、働く人の課

題であり、働く人「だけ」で解決できる、

または、働く人だけで解決できる課題であ

るということにされてしまっているからだ

と思います。


仮に、働く人だけで解決すべき課題であっ

たとしても、それに失敗したとき、経営者

には責任はないと考えることはおかしいで

しょう。


経営者は、表向きは働き方改革は重要課題

ということにしつつ、内心は他人事にして

いるという状態をあらためること抜きに、

真に働き方改革は実現しないでしょう。


ただ、経営者の人たちが、働き方改革につ

いて、臭い物に蓋をするような態度をとる

ことには、次のような理由があると考えて

います。


すなわち、従業員の方々の働く時間が短縮

することによって、生産高や売上高が減少

してしまうことを恐れているという面もあ

ると考えられます。


恐らく、多くの経営者の方は、勤務時間を

短くすることは賛同しても、それが生産高

や売上高を犠牲にする前提では賛同できな

いのでしょう。


私は、これが働き方改革がなかなか進みに

くい要因ではないかと思っています。


では、どうすればよいかというと、これは

私もコンサルタントのような立場だから言

えるのであろうと批判されることを前提で

述べると、思い切ってビジネスモデルを変

える必要があるということです。


早晩、日本では残業は原則禁止になる時代

に向かいつつあると思います。


そういった中で、大手企業では、従業員の

勤務時間を短縮するための設備投資を増や

しています。


これはIoTや人工知能の活用によって実

現性が高くなっています。


むしろ、このような設備投資を成功させる

かどうかが競争力の向上につながるといえ

るでしょう。


そうであれば、一日でも早く、従業員の勤

務時間が短くても利益を得られるビジネス

モデルを確立することが肝要です。


むしろ、いままでは、従業員ひとりあたり

の付加価値、すなわち労働生産性(=付加

価値額÷従業員数)は、実態としてあまり

意識されてこなかったと思います。


というのは、とにかく利益がでればいいと

いう前提で事業が進められ、その利益とは

従業員のサービス残業でもたらされていた

とすれば、経営者の功績はないに等しいと

いうことになるでしょう。


このように述べると建前を述べているよう

に思われますが、これまでは、労働法規が

遵守されているかどうかが、あまり厳格に

問われてこなかっただけというように私は

考えています。


働き方改革が提唱されているということを

もって、これからは、労働生産性の高いビ

ジネスモデルでなければ事業は続けられな

い時代になったということを、私たちは認

識しなければならないのだと思います。

 

 

 

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コンサルティングの上手な活用法

タイトルは「コンサルティングの上手な活

用法」なのですが、活用法というよりも、

コンサルタントとどのように関わっている

会社が業績をあげているのかということを

述べたいと思います。


ひとつめは、事前に相談がある会社です。


言い換えれば、何か困ったことが起きてか

コンサルタントなどに相談する会社は、

あまり賢明とは言えません。


これも、多くの方がご理解いただけると思

うのですが、何か困ったことが起きても、

自分で何とかなると考える経営者の方が多

く、もう自力では何ともならないという時

になってコンサルタントに相談してくると

いうことは少なくありません。


そして、課題の期限が差し迫っているほど

選択肢は少なく、打ち手もあまりないとい

う状態では、コンサルタントが相談を受け

てもどうにもならないか、仮に解決すると

しても、多額の費用がかかってしまうとい

うことになります。


このように、ぎりぎりになって相談する場

合、労力が大きくなるという面でお薦めで

きないということもありますが、そのこと

だけでなく、会社自体に課題を先送りする

という風土があることが、そもそも改善し

なければならないということも言えます。


一方、業績のよい会社は、業績がよいだけ

ではなく、さらに効率をあげる余地はない

かという観点で相談してきます。


ですから、業績が悪くコンサルタントにも

相談をしないという会社と比較すると、業

績に幾何級数的に差が広がってしまうとい

うことになってしまいます。


ふたつめは、自らは変わろうとしない会社

です。


表向きは改善したいと言っていても、行動

がともなっていない会社も、これに含まれ

ます。


会社を野球チームに例えれば、コンサルタ

ントは外部から招かれたコーチのような役

割を担います。


ですから、コーチが自らマウンドに上がっ

たり、バッターボックスに立つことはしま

せん。


このことは当りまえのように思えるのです

が、コンサルタントへの相談と言いつつ、

自社に代わってこのようなことをして欲し

い、自社の状況はただでさえ忙しいのだか

ら、これ以上仕事を増やすつもりはないと

考えている経営者の方は意外と多くいます。


これは発想が逆で、忙しいから自社が変わ

らなければならないはずです。


それに、コンサルタントに代わりに仕事を

させるのであれば、それは単に新たな従業

員を雇うことと変わりはありません。


ただ、最近は「コンサルタント」と名乗る

人の中にも「コンサルティング」をせずに

仕事の一部を引き受けるだけの方も多いの

で、コンサルタントとはそのようなものだ

と考えている経営者の方も多いのでしょう。


会社の定型業務や、高い専門性を必要とす

る業務については外注することは問題はな

いと思いますが、単に、面倒だから「コン

サルタント」に任せるという姿勢では、結

局、自社の能力は向上せず、業績もよくな

ることにはなりません。


そして、これについても、自社の能力を向

上させようという姿勢そのものが欠けてい

ることが問題なのだと思います。


一方、業績のよい会社は、早くコンサルタ

ントからの学びを吸収し、コンサルティン

グを受けなくてすむようにしようとします。


(ただ、このような会社は、ステップが上

がると、そこで次の課題を見つけ出し、再

コンサルタントに相談をするということ

を繰り返し、進歩の好循環に入ります)


以上、ふたつの例を述べましたが、ここで

「困っている会社こそ、コンサルタント

助けなければならないのでは?」と疑問を

持つ方もいると思います。


もちろん、コンサルタントは困っている会

社を助けることが役割なのですが、コンサ

ルタントの支援を活かすことができるかど

うかの最終的な要因は、その会社自身にあ

ります。


もし、コンサルタントが支援する会社の業

績向上に責任があるとすれば、コンサルタ

ントは、コンサルタントコンサルタント

ではなく、その会社の経営者になってしま

います。


これを言い換えれば、コンサルティング

受けても業績が向上しない会社の責任は、

コンサルタントではなくその会社の経営者

にあります。


もちろん、コンサルティングを受けて業績

が向上すれば、その手柄はコンサルタント

のものではなく、経営者のものです。


繰り返しになりますが、会社の業績を向上

させるには、最終的に経営者自らが能力を

高め、行動しなければなりません。


コンサルタントは、その経営者を支える役

割に過ぎません。

 

 

 

 

 

 

 

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