鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

30人、100人、300人のカベ

今回も、前回の記事でご紹介した、野坂英

吾さんのご著書「資金30万円から100

億円企業をつくった社長が教える勝ち続け

る会社をつくる起業の教科書」

( https://amzn.to/2xlGoR4 )の中から、

もうひとつ気になるポイントがありました

ので、ご紹介したいと思います。


それは、おおよそ次のようなものです。


「開業当初は、自分の言うことを素直に聞

いてくれそうな人ばかりを採用していた。


初期のうちは、それでうまくいったので、

正解だったと思う。


しかし、従業員数が30人を超えても、同

じタイプの従業員ばかりを雇っていると、

成長が頭打ちになる。


自分は、新たなことにはチャレンジするが

あまり拡散しないタイプだった。


しかし、真逆のタイプの人と仕事をするこ

とで、思いもよらない方向に事業を拡げて

いけるという可能性があることから、採用

の方針を変えた。


ただ、そのような人は、良薬となることも

あるが、劇薬にもなる可能性がある。


そこで、社内のリーダーには、会社を成長

させるために、当社にいなかったような感

性を持った人材を取り入れ、新しい取り組

みをしていくことにしたと理由を説明し、

協力を得ることで、新しい人材が劇薬では

なく良薬となるように対処してきた。


次に、従業員数が100人近くになると、

それまで共有できていた『暗黙の了解』が

機能しなくなる。


そこで、『暗黙の了解』をルールに落とし

込み、人が代わっても質を落とさない仕組

みが必要になる。


さらに、従業員数が100人を超えると、

コミュニケーションの維持が難しくなる。


当社では、毎年、社長が全社員と30分ず

つの面談をしていたが、従業員数が100

人を超えてから、その継続が難しくなり、

面談を役員で手分けするようにした。


しかし、300人を超えるとそれも難しく

なり、面談を課長や店長に任せるようにし

た」というものです。


すなわち、会社の規模が大きくなるにつれ

て、タイプの異なる人材の確保、ルールの

明文化、権限の委譲などの対応が必要にな

るということを野坂さんの経験からご説明

されておられます。


これについては多くの方がご理解されると

思います。


しかし、これを実践している会社は少ない

と私は感じています。


例えば、経営者の方が「売上高を増やした

い」という意向を持っていながら、その一

方で、組織規模を大きくするための具体的

な活動が実践できていないために、自らの

考えを実現できないという会社を見ること

がしばしばあります。


売上高を増やすには、経営者の方がたくさ

ん働けばよいという考え方は必ずしも誤っ

てはいませんが、それは、事業規模が小さ

い段階にのみ当てはまることです。


これも多くの方が理解していると思います

が、事業規模が大きくなるにつれて、経営

者の方は、軸足を事業現場からマネジメン

トに徐々に移さなければならなくなってい

きます。


ただ、実際には、軸足を移すことはなかな

か難しいようだということも、経験的に理

解しています。


というのは、多くの経営者は、事業のスキ

ルに自信があるから起業しており、マネジ

メントのスキルに自信があるから起業する

という方は少ないからのようです。


(そういう自分も、その一人です)


とはいえ、マネジメントスキルは、実際に

起業してから学ぶことも可能だと私は考え

ています。


そこで、繰り返しになりますが、経営者の

方が、事業を拡大しながら、事業現場から

徐々にマネジメントに注力するようにする

ことが、組織拡大、売上増加につながるポ

イントになると私は考えています。


今回の結論は、会社の成長にしたがって経

営者が携わるべき仕事の比重も変わってく

るので、いま、売上が伸び悩んでいる会社

経営者の方は、組織拡大のために軸足を現

場からマネジメントに移していくことをお

薦めするということです。

 

 

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勝ち続ける会社をつくるには

1995年に、リユース商品販売業のトレ

ジャーファクトリーを創業し、2007年

東証マザーズに上場(2014年に1部

へ市場変更)させた野坂英吾さんのご著書

「資金30万円から100億円企業をつ

くった社長が教える勝ち続ける会社をつく

る起業の教科書」

( https://amzn.to/2xlGoR4 )を拝読しま

した。


この会社には、事業を大きくしようとして

いる会社経営者の方にとって大いに参考と

なる事例が豊富に書かれていますが、経営

コンサルタントとして中小企業の支援をし

ている私にも共感できることがたくさん書

かれていたので、その中からいくつかのポ

イントをご紹介したいと思います。

 

(1)好きなことをで起業しない


成長を念頭に置いて起業するなら、好きな

ことを起業の基準にしない方がよい。


なぜなら、ビジネスの選択の幅が狭まって

しまったり、好きなことに対しては客観的

な視点が持ちにくくなったりするからだ。


例えば、ギターを好きな人がギター店を開

業すると、自分の好きなブランドだけを

扱ったり、廉価版は扱わなかったりするな

どして、客層を限定してしまう。

 

(2)業界の常識にとらわれない


リユースショップを開業する前に、既存の

リユースショップ48店を見て回り、店主

から話を聞いたりした。


その結果、この業界には事業の改善の余地

があることが分かった。


例えば、商品を汚れたまま陳列している、

故障に対する保証をしない、商品に値札を

つけないなど、他の業種では当たり前のこ

とをしていなくても、リユースショップ業

界ではそれが当たり前になっていることが

分かった。


そこで、自分がリユースショップを開業し

たらば、値札をつけ、保証を行い、きちん

と接客するだけでも大きく差別化できると

確信した。

 

(3)事業計画書はビジネスを磨く


事業計画書を作成すべき理由は2つあり、

そのひとつは、現実を正しく理解するため

だ。


計画を立てずに事業を始めた時と異なり、

計画を立ててから事業を始めれば、実績と

の乖離を確認することで、自社の業況がよ

いのか悪いのかを把握することができた

り、計画とのギャップが大きいときはそれ

を究明することで改善策を講じることがで

きる。


もうひとつは、先輩経営者やアドバイザー

から有用なアドバイスをもらえるようにな

るからだ。


自分で作った事業計画書は、売上、客数、

コストを甘く見積もりがちだが、それを他

者に見せるとさまざまな指摘をしてもらう

ことができ、計画をブラッシュアップする

ことができる。


もし、事業計画書がなければ、そのような

アドバイスをしてもらうことができない。

 

ここまで3つのポイントを引用しました

が、これらがなぜ大切かということを改め

て説明する必要はないでしょう。


では、なぜこれらのポイントを引用したか

というと、これらは大切だと認識されなが

らも、なかなか実践はされないものの代表

的なものだからです。


事業を起こした方の中には、自分の好きな

ことを事業にしたい、見込み客からどう評

価されるかにかかわらず自分たちのやり方

で事業をしたい、事業を営むことが最も重

要なのだから、計画を作る必要性はない、

または、あえて他者から助言をもらうよう

なことは必要ない、と考える人が少なくな

いと、私は経験的に感じています。


だからといって、経営者の方は、自分のや

りたいことを我慢して、前述のようなポイ

ントを優先して実践するべきだということ

も、直ちに言えないと思っています。


なぜなら、自らがトップに立ち、リスクを

とって起業したにもかかわらず、自らのや

りたいことがなかなかできないということ

になれば、起業しようと考える人が少なく

なってしまうからです。


ただ、経営者の方が、自分の要望を優先し

すぎてしまうことも、野坂さんが指摘して

いるとおり、事業が拡大せず、結果として

経営者の方の思いも実現できなくなってし

まいます。


この問題については、最終的には、経営者

の方がどこで折り合いをつけるかというこ

とになると思います。


ただ、これは私の考えなのですが、自社の

事業を大きくしたいと考えている経営者の

方は、いったん、事業を大きくすることそ

のものを自らの目標とすればよいのではな

いかと思っています。


事業を大きくすることを目標とすれば、そ

のためには野坂さんの指摘するようなポイ

ントも能動的に実践できるようになるので

はないでしょうか?


そして、事業がある程度大きくすることが

できれば、もともと自分がやってみたいと

考えていた事業へも展開できる余裕が出て

くるものと私は考えています。

 

 

 

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事業のリスクをどうとらえるか

公認会計士の青木寿幸さんのご著書、「お

金を集める技術-あなたの『アイデア

『ノウハウ』『事業計画』に資金が集まる

成功するファンドのつくり方」

( https://amzn.to/2s4jTem )そ拝読しま

した。


同書はタイトルから分かる通り、事業のた

めの資金調達の方法としてのファンドの組

成が本旨です。


ただ、私は、本旨ではないですが、青木さ

んがある顧客から受けた相談の内容につい

て関心を持ちました。


その内容も、やや難解なので、少し噛み砕

いて引用すると、次のようなものです。


すなわち、相談者の方は、ある事業を始め

るにあたって、投資家から1億円を集めて

会社をつくり、事業で得られた利益から

3か年で2億円の配当を行う計画である。


さらに、株式を上場させることができれ

ば、投資家の利回りは10倍以上が見込め

るので、資金調達は成功すると思うがどう

だろうかというものです。


これに対して、青木さんは「資金調達」は

失敗すると断言しました。


ここでご注意いただきたいのは、事業が成

功するかどうかということを青木さんは前

提としていません。


「資金調達」が失敗すると断言しているの

です。


確かに青木さんは公認会計士という高い専

門性をお持ちの方ですが、資金調達は会社

経営者の方にとっても重要な事柄なので、

私も、なぜ青木さんが前述のご相談者の方

の計画がうまくいかないのかということを

理解しておく必要があると思います。


では、この事例でなぜ資金調達が失敗する

のかというと、投資の利回りを示すことが

できていないからです。


ご相談者は3年間で配当を2億円行うと示

しているため、利回りを示していると考え

ていたと思うのですが、この情報では不十

分です。


利回りを確定させるためには、どれくらい

の元本が返ってくるかを示さなければなり

ません。


そのためには、会社の株式を上場させたと

きの見込みの株価を示すか、上場できない

ときの会社の売却見込み額を示さなければ

なりません。


ここで、上場や会社の売却を前提にしない

と出資者を募ることができないのかと考え

る方が多いと思います。


もし、そう考える方は、出資と融資を混同

しているのだと思います。


仮に、1億円の融資をして、3年後に3億

円(融資元金1億円+利息2億円)が戻っ

てくるとしたら、この「条件」は魅力的か

もしれません。


でも、1億円の出資(株式の購入)をし

て、2年間に2億円の配当がもらえるとい

う条件は魅力的でしょうか?


もちろん、両者には、そのお金を融通する

相手の信用リスクを負わなければならない

という点では共通していますが、両者の違

いは、事業が失敗したときの責任の有無で

す。


融資の場合、融資先の会社の事業が失敗て

も、その責任はなく、会社に元金と金利

支払わせる権利が残ります。


一方、出資の場合は、事業が失敗した責任

を出資者も負うという点で、融資の場合と

180度異なります。


もちろん、融資をした場合に、その相手に

返済の能力がなければ、その権利を行使で

きませんが、出資の場合、会社の当事者と

して責任を果たす(出資金を限度にお金を

失う)ことになるという違いがあるという

ことです。


それは、2億円の配当では釣り合わないと

考えるべきというのが青木さんが資金調達

が成功しないと考える最大の理由です。


もう少しありていに言えば、上場する前の

会社への出資は、事業が成功する確率は

10%にも満たないので、少なくとも計画

の段階で元本が10倍以上にならなければ

見合わないということが現実です。


(さらに、厳密にいえば、株式を売却でき

る状態になるかどうか(これを流動性の確

保といいます)で、条件も変わってきます

が、ここではその説明は割愛します)


ここで、元本を10倍にしなければならな

いという前提は厳しいと感じるかもしれま

せん。


でも、東証1部上場の会社の株式さえ、元

本は保証されていません。


もちろん、値上がりも期待できますが、仮

に倒産してしまえば、株式を購入した代金

は帰ってきません。


株式を上場している会社と上場していない

会社を比較することは適切ではないのです

が、株式を上場していない会社のの出資は

リスクが高く、元本が10倍以上になる見

込みを示さないと、出資者しようとする人

は現れないということです。


繰り返しになりますが、これは、裏を返せ

ば、出資をする側は少なくとも10社に1

社は出資をしたお金は返ってこないと考え

ているということです。


最近、クラウドファンディングで資金調達

が成功しているという例をきくことも増え

て来ましたが、そもそも、それは利回りよ

りも社会貢献を優先する方たちの出資であ

り、比較すること自体が無意味です。


今回引用した事例から学び取ることはたく

さんあるのですが、私がお伝えしたいこと

は、自らが行おうとする事業のリスクは、

三者からみるとものとても大きいという

ことです。


このような情報については、一般の方はあ

まり触れることはないのですが、銀行が創

業者向け融資に信用保証協会の保証を条件

にしたり、創業者に30%程度の自己資金

を求めたりする理由はこのような事情があ

るからなのです。

 

 

 

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新しい買い物

無印良品のスマートフォーンアプリの制作

にかかわった勝部健太郎さんと、無印良品

の金井政明会長、川名常海(つねみ)WE

B事業部長たちによる著書、「新しい買い

物-理想の社会を買い物でつくる」

( https://amzn.to/2koaKZQ )を読みまし

た。


この本を読もうと思ったのは、現在、独特

の商品づくりをしている無印良品が、商品

の価値をどのようにとらえているかという

ことに関心があったからです。


最近のマーケティング手法は、カスタマー

リレーションシップマネジメント(CR

M)、ワントゥワンマーケティングなどが

ありますが、それらもひとつの手法であ

り、普遍ではありません。


また、常に小売業の最先端にいる人の考え

方も知りたいという興味もありました。


そこで、同書の中で、私が共感したいくつ

かのポイントをご紹介したいと思います。


ひとつめは、「買い物は二極化する」とい

うことです。


それは、従来の買い物と新しい買い物に明

確に分かれ、中間的なものは残らないとい

うことです。


従来の買い物とは、いま、私たちが考えて

いる買い物のことで、それらの買い物はコ

モディティ化したものです。


コモディティとは日用品を指しますが、単

に日用品にとどまらず、商品の個性がなく

なっているものも含まれます。


例えば、パーソナルコンピューターは、か

つてはメーカーの個性がありましたが、現

在ではOSのWindowsがデファクト

スタンダードになり、メーカーのブランド

の壁はかなり低くなっていることから、コ

モディティ化が進んでいる商品といえるで

しょう。


そして、従来の方法での買い物の対象の多

くは大量生産・大量販売されるものですの

で、中小企業には不向きであり、新しい買

い物(詳細は後述します)に応える事業こ

そ、中小企業が展開すべき分野といえるで

しょう。


では、具体的に新しい買い物とはどういう

ことかというと、同書によれば、買い物を

通じて共感性、体験性、共創性を得ようと

することだそうです。


これは、いわゆる「コト消費」をより具体

的に述べているものだと思います。


まず、共感については、無印良品の商品の

ひとつの、「ごはんにかけるふかひれスー

プ」は、ふかひれスープの需要のために、

世界で年間1億匹のさめが乱獲され、絶滅

を危惧する人たちから不買運動が起きたも

のの、それは誤解であり、同社の製品は、

まぐろの延縄(はえなわ)漁に、たまたま

交じって収穫されたさめのひれを使ってお

り、ひれ以外の部分も練り物などの材料に

使っていること、また、産地である気仙沼

の震災復興を支援する意味であることを、

プレスリリースなどで伝えたら、その発表

の翌週は、同製品の売上が前の週の2倍に

なった例があるそうです。


すなわち、消費者にとって共感は消費の大

きな判断要因になっているということが分

かります。


次に、体験を買うでは、バルミューダトー

スターの例があるそうです。


そのトースターは数万円するものですが、

性能だけでなく、そのトースターで焼いた

パンを家族でおいしく食べるという体験が

できることが評価され、いまだに高い人気

を維持しているそうです。


これも同様に、消費者が体験を重視してい

ることが分かる例です。


そして、共創するでは、机の上でノートや

書類を立てるために作ったスタンドファイ

ルボックスが、ある主婦がキッチンでフラ

イパンを立てるために使い、それについて

ネットで情報の共有が行われるということ

が起きているそうです。


同社としても、よりよい生活のために自社

製品を使って欲しいという発想から、この

ような仕組みを設けているそうです。


このように、消費者が同社の製品の価値を

高める仕組を提供することは、自社にとっ

て有用ですが、消費者にとってもよりよい

生活が実現できるという利点があります。


以上が私が同書のポイントと感じたもので

す。


同社の考え方はひとつの会社の考え方です

が、どうすれば新しい価値の提供ができる

かということを考える上で大いにヒントに

なると思います。


そして、私が付け加えたいことは、このよ

うな新しい買い物の対象となる商品は、単

なるものづくり(品揃え)ではないという

ことです。


すなわち、共感性、体験性、共創性をつく

るためには、熟練した人材が必要であり、

そのような人材を育成することもこれから

の時代には重要になっているということで

す。

 

 

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会社組織と経営戦略

経営学の有名なテーゼに、米国の経営学

研究家のチャンドラーの「組織は戦略に従

う」というものと、ロシア出身の経営学

のアンゾフの「戦略は組織に従う」という

ものがあります。


まず、「組織は戦略に従う」というテーゼ

は、チャンドラーが20世紀初頭の米国の

会社を研究する中で、ゼネラルエレクト

リック社やゼネラルモーターズ社などが事

業部制組織を敷いたことから、帰納的に導

いたものです。


この事業部制組織とは、簡単に言えば、会

社の規模が大きくなると、さまざまな課題

に直面することから、その課題ごとに事業

部を置き、そこに権限を委譲するという組

織のことです。


一方、「戦略は組織に従う」というテーゼ

は、自社の特性に合わせて戦略を練るべき

というアンゾフの考えに基づくものです。


これは、有名なアンゾフが提唱した成長ベ

クトル(アンゾフ・マトリックス)を思い

浮かべれば理解できると思います。


成長ベクトルとは、会社の販売する商品と

その販売する顧客について、それぞれ既存

と新規で細分化し、それによってできた4

つのマトリックスのうち、自社の特性から

どの方向を目指す戦略をとるべきかを検討

するという手法です。


例えば、既存の製品を既存の顧客に対して

販売する戦略は市場浸透戦略であり、新た

な製品を新たな顧客に対して販売する戦略

多角化戦略です。


これらの2つのテーゼは、言葉だけをみれ

ば、180度異なるものですが、経営学

の間では、それぞれ尊重されているようで

す。


ただ、これは私見ですが、経済的に成熟し

た現代では、勝ち抜くための戦略は限定的

になりつつあることから、会社の組織の特

性に合わせて自ずと戦略が特定される状況

になりつつあり、すなわち、戦略は組織に

従うという状況になっていると、私は考え

ています。


ここまでは、経営学の議論について述べて

きましたが、今回の記事の本旨はどちらが

正しいかということではありません。


これは、私がこれまで多くの会社の事業改

善のお手伝いをしてきて感じることなので

すが、中小企業の経営者の方の多くは、戦

略ありきで事業展開を考えていると感じて

います。


すなわち、事業の成否は戦略によって決ま

ると考えている会社経営者が多いというこ

とです。


このことが直ちに誤っているわけではない

のですが、一方で、事業が失敗してしまっ

たときの理由としては、組織の成熟度が低

い、または、戦略に対応できる人材がいな

いという、組織的な問題になっているとい

う例が多いと私は感じています。


すなわち、中小企業では、経営者の方は戦

略にばかり頼ろうとしており、戦略に比較

して人材育成への関心が相対的に少ない経

営者が多いということです。


これは、組織の能力の開発には時間がかか

るということが大きな要因となっているか

らでしょう。


したがって、今回の記事の結論は、組織と

戦略は密接に関わっており、片方だけを重

視するだけではよい業績には結びつかない

ということです。


むしろ、時間はかかるかもしれませんが、

中小企業の場合、組織の能力を開発するこ

との方が、選択できる戦略も増えることに

なり、結果として強い会社になると私は考

えています。

 

 

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EBITDA

管理会計の考え方にEBITDAというも

のがあります。


EBITDAは、"Earnings before in-

terest, taxes, depreciation, and amor-

tization"の略で、「利払い前・税引き前

減価償却前・その他償却前利益」とも

言われています。


EBITDAは、損益計算書に直接に記載

されるものではありませんが、次の式で計

算できます。


EBITDA=税引前利益+特別損益+支

払利息+減価償却


ただし、中小企業では、

EBITDA=営業利益+減価償却

と考えても問題ないと私は考えています。


なお、減価償却費は、販売費及び一般管理

費だけでなく、製造原価や工事原価にも含

まれていますので、EBITDAの計算に

あたっては、そちらの減価償却費も計算か

らもれないよう注意が必要です。


ここまで、EBITDAについて説明しま

したが、この数値は、銀行の融資審査(ま

た、M&Aの査定やベンチャーキャピタル

の審査も同様です)で重視しています。


なぜ重視されるかというと、その会社が事

業によって産み出した現金の量、すなわち

キャッシュフローとほぼ等しいからです。


では、どうしてEBITDAがキャッシュ

フローとほぼ等しくなるのかというと、減

価償却費は費用ではあっても、他の費用と

異なり、現金の流出はないからです。


減価償却費は、建物や機械などの価値の減

少を費用としたものなので、現金の流出は

ありません。


ただし、建物や機械を購入した時点で、そ

の代金全額が現金として流出しており、こ

れを言い換えれば、建物や機械の購入時点

で代金分が現金として流出したものの、そ

の時点ではその全額が費用にならず、その

後の会計年度に、その建物や機械の価値の

減少分を費用にしているということになり

ます。


そして、このEBITDAで把握される現

金の量は、銀行から見れば、融資を返済す

る能力を示しています。


別の言い方をすれば、融資の返済原資は利

益額だけでなく、減価償却費として計上さ

れた金額も含まれるということです。


したがって、銀行は融資審査のとき、利益

減価償却費の合計額がどれくらいあるか

ということを計算しています。


もう一歩踏み込んで述べると、銀行はEB

ITDAから算出される債務償還年数(融

資総額がEBITDAの何年分かを示す数

値)を計算し、その会社の融資総額が多い

か少ないかを判断する目安としています。


債務償還年数=融資総額÷EBITDA


ちなみに、営業利益がマイナス、すなわち

赤字の場合であっても、減価償却費が計上

されていることによって、EBITDAが

プラスの場合は、融資返済能力があるとい

うことになります。


そこで、会社経営者の方は、自社のEBI

TDAをあらかじめ計算して銀行職員とお

話しをすると、銀行の考え方がより理解で

きるようになると私は考えています。


いまは、会計事務所が作成してくれる月次

試算表にはEBITDAを計算して記載し

ている場合もあると思います。


もし、EBITDAがない場合は、営業利

益+減価償却費を計算し、手書きで書き加

えておくことも有用だと思います。


最後に、会社は赤字であっても、EBIT

DAがプラスであればよいということでは

必ずしもありません。


EBITDAによって融資返済能力がある

としても、それだけをもって銀行は赤字の

会社を評価するということはしません。


会社は利益を得ることが基本であることに

変わりはないということに、ご注意くださ

い。

 

 

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短期的な財務目標と長期的な財務目標

あらためて述べるまでもなく、会社にとっ

て資金は血液のようなもので、資金が不足

すると事業を運営できなくなることから、

経営者の方は資金調達に常に注意を払って

いると思います。


この資金繰は、短期的なものと長期的なも

のがあります。


短期的なものは、いわゆるキャッシュフ

ロー(CF、現金・預金残高)の確保で、

このことは一般的に言われている資金繰の

ことです。


長期的なものは、利益の確保です。


利益は会社のストック(いわゆる内部留

保)になるので、その分、銀行など外部か

らの資金調達を減らすことができます。


また、詳細な説明は割愛しますが、利益が

少ない、または、赤字の会社は信用力が小

さくなるので、前述の短期的な資金繰を維

持することがより困難になります。


資金繰というと、1か月後、1週間後、明

日などの支払い資金をどうするかというこ

とにばかり目が行きがちですが、そもそも

利益を得ていなければ、この短期的な資金

繰も維持できません。


ただ、財務分析ではCFは流動性分析とし

て、利益は収益性分析として行われている

ので、両社は別のものと考えている人が多

いのかもしれません。


そこで、私は、CFは短期的な財務目標、

利益は長期的な財務目標と説明することも

あります。


この両者は、どちらかだけが達成されれば

よいということではなく、どちらも達成で

きなければ、会社の事業は維持できないも

のと認識することが必要です。


ところで、ここまでは多くの方が理解され

るのですが、実際には、短期的な資金繰に

ばかり気をとられている経営者の方が少な

くないと感じています。


というのは、例えば、月末に仕入れ代金の

支払日が来るが、資金が足りないというこ

とで銀行に融資を申し込み、承認が得られ

れば安心してしてしまう、すなわち、毎月

の支払日を乗り切れさえすればよいと考え

ている方が多いのではないでしょうか?


もちろん、CF、すなわち短期的な財務目

標を達成することができれは、短期間は事

業が継続できますが、前述の通り、利益の

確保、すなわち長期的な財務目標を達成で

きなければ、会社の信用は低下し、早晩、

事業は行き詰ってしまいます。


話がそれますが、長期的な財務目標の達成

を目指していない経営者の方は、自社の信

用力が下がってきたときに、銀行は冷たい

と感じたり、そのために融資対策もしなけ

ればならないと考えてしまうのではないで

しょうか?


話をもどして、なぜ短期的な財務目標だけ

に目が向いてしまう経営者が多いのかとい

う理由については、次のようなことが考え

られると思います。


ひとつは、前述のように、CFと利益は密

接な関係があるのですが、そのことを理解

せず、CFだけに目を向けてしまうからだ

と思います。


ふたつめは、利益が得られなくても必ずし

も直ちに倒産するとは限りませんが、CF

はそれが底を尽きると直ちに倒産してしま

うため、利益についてはCFと比べて後回

しにされがちなのでしょう。


そしてみっつめは、利益確保、すなわち対

顧客(市場)への働きかけこそ、会社の課

題として最も難しいからではないでしょう

か?


銀行から融資を受けるための折衝も決して

容易ではありませんが、それでも、銀行は

融資先を支援するという使命を担う立場で

もあることから、融資を申し込む側に寄り

添うこともあります。


一方、顧客の獲得は、競争が激しい経営環

境の中にあっては、会社にとって最も難し

い課題です。


そこで、事業の継続という側面から見れ

ば、資金繰が苦しい会社は、顧客への働き

かけよりも、銀行を頼ってしまうという傾

向が強くなるのではないでしょうか?


今回の結論は、資金繰は銀行だけへの働き

かけ、すなわち融資を得るだけでは解決し

ないため、あわせて、利益の確保という根

源的な課題にも目を向けなければならない

ということです。

 

 

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