鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

偶発債務

約1年前の話ですが、鴻海がシャープを

買収するつめの段階で、偶発債務が話題に

なりました。


両社の個別のことについては、私は詳細を

把握していないのですが、一般論として、

買収しようとしている会社の偶発債務が

直前になって問題になるということは

不自然に感じます。


偶発債務は、どんな会社にもあるもの

なので、シャープだけがあれほど騒がれる

というのは、なぜなのかと思いました。


ただ、偶発債務についてきいたことがない

人にとっては、「シャープに何か新たな

問題が起きたのか」という印象を持って

しまった方もいらっしゃると思いますので

今回は、一般的な偶発債務について簡単に

説明したいと思います。


中小企業でポピュラーな偶発債務の例は、

商業手形割引です。


商業手形割引は、製品や商品の販売代金

として受け取った約束手形、または、

為替手形(これらは、貸借対照表の勘定

科目では、受取手形に計上されます)を

銀行に売却し、それらの手形の支払期日

までの利息に相当する割引料を差し引いた

金額を受け取るという資金調達方法です。


例えば、100万円の受取手形を銀行に

割引してもらい、その時の割引料が

5万円であったとすると、仕訳は次の

ようになります。


(借方)

当座預金 95万円

割引料 5万円


(貸方)

受取手形 100万円


すなわち、資産である受取手形100

万円が減少し、そのかわり、資産の

当座預金95万円が増加し、費用の

5万円が発生するということです。


ところで、先ほど、会社が銀行に手形を

売却すると書きました。


商業手形割引は、機能面としては資金

調達なのですが、法律上は売買として

扱われています。


しかし、商業手形割引は、一般の商品や

製品の売買と同様に扱うことはでき

ません。


なぜなら、万一、売却した手形が支払

期日になって不渡りになったとき、

手形を買い取った銀行は、手形を売り

渡した会社に対して、それを買い戻す

という条件があるからです。


この条件の根拠は、手形訴求権と、

買戻し請求権のふたつがあるのですが、

ここではその説明は割愛します。


要は、受取手形を銀行に売却したと

しても、その手形が不渡りになると

いうリスクは、売り渡した会社からは

離れていないということです。


このリスクが偶発債務です。


そこで、会計上の規則では、決算日

時点で、割引した手形の金額を、

貸借対照表の欄外に注記することに

なっています。


これは銀行によって解釈が異なるの

ですが、商業手形割引は融資として考え、

財務分析を行うときは、商業手形割引

額を負債の額に加えて行っている場合も

あります。


一方で、会社の貸借対照表には、割引を

した手形の金額が負債の欄に計上されて

いないことから、経営者の方の中には、

商業手形割引を負債ではないと考えて

いる方も多いようです。


このように書くと、「それなら、商業

手形割引を負債として計上すればいい

のではないか」と考える方もいること

でしょう。


かつては、そのように計上する考え方も

あり、その方法で貸借対照表を作成して

いる会社もありました。


ただ、その理由については割愛しますが、

金融商品会計に関する実務指針」などに

よって、商業手形割引額は、貸借対照表

欄外に注記することとされています。


この点についてはややこしいのですが、

偶発債務という考え方が、銀行と、

中小企業経営者の間での認識の差が

起きる原因のひとつになっていると

いうことについて挙げておきたいと

思います。

 

 

 

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