鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

風船を吹き矢で割ろうとする妻

これまでに私がお会いしてきた、創業に関

するご相談者の方の多くが、これから始め

ようとしている事業について、しっかりし

た根拠をもっていないにもかかわらず、成

功することを確信しているという共通点が

あります。


(なお、「しっかりした根拠をもっていな

いにもかかわらず、成功することを確信し

ている」からといって、そのような方が始

めようとする事業が必ず失敗するというこ

とではありませんので、念のため申し添え

ます)


このように考えている方の場合、銀行から

融資を受けようとするときに、論理的な説

明ができずに承認を得られないことがあり

ます。


そこで、どうすれば冷静に事業の成功要因

を説明してもらえるようになるかというこ

とを、私は長い間考えてきました。


現在もそれを明確に究明できたわけではな

いのですが、あるとき私が聴いた、作家の

本田健さんのセミナーで、本田さんがお話

しされておられたことが、その理由のひと

つの側面を解くヒントになりました。


その本田さんのお話しとは次のようなもの

です。


すなわち、「会社勤めをしていた夫が、脱

サラをして事業を始めようとしているとき

は、たいてい、自分は成功すると信じ切っ

ている。


それを見た妻は、夫に対して、事業が失敗

する理由をたくさん挙げて、夫を止めよう

とするが、それでも夫は妻の制止を振り

切って事業を始めてしまう。


そして、幸運にもその事業が成功しそうに

なり、あたかもそれは、夫が空にのぼって

行く風船につかまって、ふわっと足が地上

から離れようとしているようなとき、それ

を見た妻は、吹き矢を吹いて夫がつかまっ

ている風船を割ろうとする」というもので

す。


実は、これは、私自身にも心あたりがあり

ます。


私が独立しようとしていたとき、私が未熟

であったために、これから始めようとする

事業の内容を周囲の人に十分に説明してい

なかったため、かみさんなどには不安を抱

かせてしまっていたようです。


ただ、なぜ、私に限らず、同じようなこと

をする人が多いのでしょうか?


ここからは、本田さんの話をきいて、その

後、私が考察したことなのですが、前述の

本田さんのお話しに出てくる妻は、夫の心

の陰を感じ取り、それを夫に伝えようとし

て、事業を始めることを制止しようとして

いるのだと思います。


その夫の心の陰とは、「脱サラして事業を

成功させ、評価されなければ、自分に価値

はない」という劣等感です。


でも、妻は、すでに夫を評価しているの

で、あえてリスクをとってまで事業を始め

なくても、いまのままで十分だということ

を夫に伝えようとしているのでしょう。


そして、夫の事業が成功しそうになったと

しても、妻は夫の評価が変わるわけではな

いので、リスクを負い続けることを止めて

欲しいと夫に訴えることになる、というこ

とが私の分析です。


ただ、だからといって、夫は独立して事業

を始めるべきではないとは、私は考えてい

ません。


そもそも、事業はリスクをともなうもので

あり、リスクのコントロールの巧緻が経営

者の能力として問われるところです。


問題なのは、事業を始める本当の目的が、

自分の劣等感を満たすことになってしまっ

ているということです。


これは、夫と妻の関係だけではなく、経営

者と従業員に温度差があるときも、その原

因は同じだと私は考えています。


経営者だけが熱心に事業に臨んでいるもの

の、従業員の方はさめているというとき、

経営者の方は自己中心になっている可能性

があると考えられます。


話しを戻して、喉がからからに乾いている

人がごくごくと水を飲むように、劣等感の

強い人は、それを埋めようとして、リスク

をとって事業を始めようとしてしまいま

す。


とはいえ、劣等感を持っていないという人

は、まずいないでしょう。


ただ、強すぎると冷静でなくなり、成功す

る可能性の高い事業であっても、周りの人

からの協力が得られなくなり、失敗する可

能性も高くなってしまいます。


その具体的な方法の説明は割愛しますが、

脱サラした夫は、まず、自らの劣等感をコ

トロールし、妻に協力を求められるよう

にするところから着手しなければ、徐々に

そのひずみが大きくなり、後になってたい

へんな事態になってしまいかねません。

 

 

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