鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

工夫は楽しい

今回は、私が銀行で働いていたときのこと

を書きます。


内容は、手間を減らす工夫をしたというこ

とだけで、それほど深い内容(といっても

いつも深いことは書いていませんが)では

ありませんので、気楽に読んでください。


銀行には、短期継続融資という融資があり

ます。


これは、融資先の短期的な資金需要に応じ

る融資の慣行です。


この融資の特徴は、3~6か月の期間で融

資を行いますが、融資の期限が来ても、元

金を返済してもらわずに、新たに同額の融

資を行います。


融資を受ける側から見れば、利息は支払う

ものの、元金はずっと借りたままでいられ

るという融資です。


このようなことから、短期継続融資は、俗

語っぽく、コロガシ融資と呼ばれることも

あります。


なお、短期継続融資やコロガシ融資は正式

な名称ではなく、銀行によっては別の呼び

方をしている場合もあります。


話はそれますが、このような融資方法は、

融資元金はずっと減らないため、外見的に

は、返済猶予(リスケジュール)をしても

らっている状態と変わらないことから、金

融庁から融資先を支援する融資と解釈され

てしまうことを避けたいとの銀行側の思惑

で、一時、このような融資方法が行われな

かったこともあったようです。


しかし、平成27年に、金融検査マニュア

ルの解釈変更(厳密には、同マニュアル別

冊中小企業融資編への事例追加)によって

融資を受ける相手の業況が良好な場合、短

期継続融資であっても、それは健全な融資

ということになりました。


話を戻して、私が融資係をしていたとき、

取引先の中には、このような短期継続融資

を受けている会社がたくさんありました。


そのような会社は、貸付契約が多く、その

管理も大変でした。


例えば、翌月に期限が到来する契約を、前

もって調べて、融資先にその借入を継続す

るかどうかを確認し、継続の希望を受けた

場合(といっても、ほとんどが継続の希望

を受けます)は、継続のための稟議書を書

いて申請します。


稟議書の承認が得られれば、現在の融資の

期限が到来するまでに、融資契約書(実際

は、融資専用手形)を融資先からもらって

きて、融資期日に新たな融資に切り替えま

す。


ある意味、仕事なので仕方ないのですが、

結果として、ずっと融資を続けるのであれ

ば、もっと合理的な手続きはできないもの

かと、私は考えていました。


結果として、後述の通り、私は融資の契約

数や、申請する稟議書の数を減らすのです

が、銀行はある面で、手間をかけるのは融

資先を吟味するために必要なことであり、

それが規範的な姿勢という考え方もあり、

手間がかかることこそ仕事をしているとい

う価値観がありました。


しかも、当時、入社1~2年目の平社員で

あった私が、いままでのやり方を変える提

案事態は憚れることでした。


ただ、当時は、銀行は店舗展開に積極的で

あったにもかかわらず、従業員の総数は変

えない状況であったことから、1つの支店

の従業員数は減る傾向にあり、従来の事務

を続けることは賢明でないという思いもあ

りました。


そこで、私は、思い切って融資課長に、短

期継続融資をしている会社で、融資件数の

多い会社に対して、当座貸越契約を結ぶこ

とを提案しました。


当座貸越契約とは、本来は、当座預金の契

約がある会社が、当座預金の残高を超えて

小切手や手形の決済があったとき、その不

足分を銀行が立て替えるという形式の融資

方法です。


例えば、ある銀行に、100万円の約束手

形の取立があったとき、その手形の振出人

当座預金の残高が50万円しかなかった

場合であっても、前もってその会社と銀行

の間で当座貸越契約があれば、残高の50

万円を超えて、銀行は不足する50万円を

立て替えて、手形を決済します。


現在では、この契約は、当座預金とは切り

離されて、借越だけの専用の取引も利用さ

れるようになっています。


その例としては、事業性融資専用のカード

ローンがあります。


私が融資課長に提案した当座貸越契約は、

事業性融資専用のカードローンよりも金額

の大きい、貸越専用契約で、1社あたり、

数千万円~数億円の契約でした。


このような融資契約は、極度取引(いわゆ

る枠の取引)なので、1年に1回の稟議申

請ですみます。


融資先も、当座貸越契約の金額までは、任

意に融資を受けられるので、これまで、個

別の融資契約をしていたよりも、借りられ

る金額が明確になるという点で利点があ

り、また、融資契約書(融資専用手形)に

貼り付ける印紙も節約することができま

す。


このようなことから、融資課長には私の提

案を受け入れてもらったのですが、だから

といって、直ちに短期継続融資を当座貸越

契約に切り替えることはできません。


短期継続融資の場合は、年に数回、稟議申

請をするので、そのたびに、融資先の業況

をチェックする機会があったわけですが、

当座貸越契約の場合、年1回しか稟議申請

が行われないので、審査をする側も、それ

なりに慎重になります。


また、短期継続融資は、1件が数百万円か

ら1千万円程度でしたが、当座貸越契約の

場合、極度(枠)での申請ということもあ

り、契約金額も5千万円から数億円となる

ので、やはり融資審査はより慎重になりま

した。


このような状況は前もって分かることなの

で、逆に言えば、私以外にも当座貸越契約

への切り替えを思いついた人がいたとして

も、実際に切り替えすることは躊躇してい

たのかもしれません。


とはいえ、いつまでも同じことを繰り返し

て苦労するのであれば、一時期にちょっと

苦労することの方が、トータルでは負担は

小さくなるとの思いから、いいだしっぺの

私は、重たい稟議申請をすることになりま

した。


もちろん、当座貸越契約の稟議書がすんな

りと承認になったわけではありませんが、

結果として、私の思惑は実現しました。


この、当時、入社して間もない私の経験

は、その後の銀行職員としての仕事におい

ても、改善を積極的に行う後押しとなりま

した。

 

 

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